複雑・ファジー小説
- Re: 罪とSilencer 第二章第一話更新 ( No.65 )
- 日時: 2013/04/25 23:07
- 名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)
第二話「能力者の異変」
目の前に大きな鳥居が立っている。何メートルあるんだろうと、じっと見つめた。10メートルぐらいかな……
「よし、着いたな。ここが氷川天満宮だ」
日本有数の神社である氷川天満宮は学問の神様を祭っているため多くの人が訪れる。そして、政府の能力者用シェルターでもある。ここの神主は僕と同期の人間だそうだ。数少ない同期だから知り合いだといいな。
「この本殿から地下へ行く。そこで神主に会って、俺の友達を紹介してやるよ」
「それはどうも。今回の任務をまだ知らないけど」
「神主が依頼人の代表だから、そいつから聞いてくれ。しっかり聞いて謡に伝えてくれや」
「なんで謡はいないんですか?師匠」
「謡は一応、部外者だからね。簡単には政府施設に案内できないのさ」
本殿の玄関に行き、巫女さんに警察手帳を見せると何も言わずに通してくれた。そのまま、靴を持って進み箪笥の扉をずらすとエレベーターがあった。ずいぶん、ハイテクだな。
「靴を履きなおして中に入れ」
師匠に言われた通り靴を履き、エレベーターに入ると自動で動き始めた。どうやら隠しカメラがあるみたいだ。
エレベーターから出ると病院みたいなところに出た。受付の前に青い髪で青い眼をした水干姿の若い神主らしき人が立っていた。その後ろに立っているのは執事……じゃないな。スーツをしっかり着こなしているけど、神社に執事はおかしいだろ。
「お久しぶりです。先生」
「おう、テメェも元気にしていたか?」
神主が微笑みながら師匠と握手していた。でも疲れかな……お互いのこめかみに血管が浮いているような……そうか、お互いに握力検査してるのか。相変わらず師匠には敵が多いな。
「ひさしぶりだな」
「生きていたか……テメェ」
「そちらは、お弟子さんの三戟紫炎君ですね。私は清水正(シミズ タダシ)と言います。以後よろしく」
律儀にお辞儀をしてくれた。もちろん、僕もお辞儀をして返す。
「言い遅れた。自分は矢向 社(ヤムカイ ヤシロ)と言う」
水干姿の青年が額に浮かんだ汗を拭ってから、落ち着いた冷めた声で挨拶をした。
「失礼ですが、僕と同期の人ですか?」
今、一番聞きたいことはこのことだった。学校のちょうど半分が殺されてしまったため同期の人間も少ない。元仲間に会いたいという気持ちは僕たち以外にも持つ人間がいるだろう。
「う……まぁ……そうだね」
苦笑いしながら矢向が言う。そこまで嬉しくないみたいだが、僕がなんか悪いことしたかなぁ……
「級友に会えて嬉しいのは分かるが、厚木……いや、知名崎先生は忙しいから早速本題に入る」
清水先生が緊迫した顔つきでハキハキと僕たちに注意する。さすが元先生だ。
「会いたい人がいるからついてきてくれ」
早歩きで廊下を歩き始めた。僕以外はしっかりついてきているが、僕は少し出遅れた。昔はこんなに早く動いたのかな……清水先生には習ったことがないからわからないな。
「昨日の夕方頃。矢向の友人である『秤辺 冴里』が病院に搬送された。主に目立った外傷もないし、精神的な傷もない。その前に言っとくことがあったな……冴里は昔、犯罪組織に手を貸していたことがあった。自身の能力『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』を使って。この能力は自分の記憶や自我を犠牲にして、相手の過去や思考を読み取る力。犯罪組織に嫌気がして私と矢向は冴里を助けた。その時、能力を使いすぎて冴里は昏睡状態になり……能力と自身の記憶を失った。永久に失った。しかし、病院から退院した冴里には能力が戻ってきた。この前、知名崎先生の依頼で過去の状態に戻す能力者がいただろう?なんだっけ……」
「吉祥恵那さんです」
「そうだった。その能力系統なら記憶も戻ってこないとおかしい。でも戻ってはいないそうだ。新たな強力な能力者がやってきたということだ。その能力者に冴里は話しかけられたらしい。『つまらないなら……吾輩の元へ来い。君を吾輩は必要としている……過去の君を……』と言ったそうだ」
秤辺 冴里という札がかけられている部屋の扉をノックして僕らは這入った。静かな白の色で染められた部屋の真ん中に椅子に腰かけている鳶色の短い髪に、金目の少女がいた。無表情なのがもったいないが、今回の能力者はストーカーなのかもしれない。
「そこのアンタ、犯人がストーカーだってまだ決めつけないでくれる? それでも専門職の人?」
金眼の少女、秤辺 冴里はすぐさまこの三戟紫炎に毒を吐いた。……そ、それぐらいではへこたれはしない! 一応、何人か守ってその分敵を消してきた。ちゃんと腕前もある!
「無理しなくてもいいよ。ボクには清水センセや、社がいるから」
…………僕は隠居した人よりも頼りないのか?
「ハァ……冴里。これ以上紫炎をいじめないであげてくれ。あいつは君の能力を理解できたから」
矢向が肩をがっくりさせて落ち込んでいる僕の肩を気にするなと言わんばかりに軽くたたくと冴里を注意した。僕の心を読んで『ストーカー説』を否定したのか。『記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)』……スパイが持っていたら大変なことになる能力だな。
「ボクの能力が前より負荷が無くなっているみたい……」
やはり、本人である冴里も少し焦っているみたいだった。