複雑・ファジー小説

Re: 罪とSilencer 第六話「切り裂きジャック」更新 ( No.72 )
日時: 2013/06/13 21:08
名前: 檜原武甲 ◆gmZ2kt9BDc (ID: S20ikyRd)

第七話「弱点」
すぐさま、掌からジャックの顔にロケットランチャーで目標を定めると発射した。熱追尾式のため、この近距離なら逃げ切ることはできない。

「また、同じ手ですか! しつこいですね!」

ジャックはもちろん、さっきと同じく顔面の鉄仮面を犠牲にしてダメージを無効にするだろう。さて、この時できた爆発による煙で視界が遮られる。さっき、ジャックはナイフを投げて僕の右腕に怪我を負わせた。ナイフを的確に当てたということは……奴は僕の居場所を知っていたということだ。なら何故、ナイフを空中移動させて僕を攻撃しないのか。その方が、一番効き目があって、僕は即死するかもしれない。

「なんで、能力を使って僕を殺さなかったか」

独り言をつぶやきながら煙幕弾をすぐさま投げつける。
 能力を使わなかったのは、ダメージが強すぎて彼の能力が一時的に破壊されたからじゃないのだろうか。破壊されて修復までほんの数秒、時間がかかる。その間に、牽制として手で持っていたナイフを油断していた僕に投げつけたのではないか。まぁ、投げつけただけというのは僕を敵だと見なしていないかという考えもあるが……一か八か。
 静かに煙幕に紛れて背後に回り、首の付け根部分へサバイバルナイフを近づける。敵は能力も使えないし、周りも見えていない。今が好機!

「おッ! 」

ジャックが殺気を感じて後ろを振り向くが、それはもう遅い。すでに首へナイフを近づけている。後は鉄仮面で覆われていないところを掻き切るだけだ。

「まだまだぁ! 私はそれぐらいじゃやられない!」

手を伸ばすが、ジャックは僕の手を掴んだ。まるで氷のような冷たい手だった。生き返ったのだから温かくなってもいいのではと思いながらも、懸命に振り放そうとする。固くてなかなか離せん。やっぱり、何か武道でも習っていたのだろうか。僕の攻撃時間は短い。そろそろ、ジャックの能力も回復してしまう。

「さて、今すぐ腕から足まで中から串刺しにしてあげます」

ジャックの手の強さが一層強くなった時、悲劇が起きた。
一発の銃声がして、僕の手を掴んでいるジャックの右手が弾け飛んだ。僕の体に当たらないように計算された狙撃だった。
 煙幕はもう薄くなっていて、周りの風景が見えるようになっていた。僕の思考を読んで、どんな戦いになっているのかを知っているはずの冴里は唖然と空中を見ていた。その先には白い服を着て青い髪の毛の今さっき別れたばかりの男が工事現場の足場の上で狙撃銃を構えていた。もし、無線で会話することができたら「すぐさま逃げろ」と言っているだろう。戦っている相手が『切り裂きジャック』と知ったら逃げないと最悪な事態が起きる。冴里は今、意識を矢向社に向けているということは彼が傷ついたら————

「いきなり、撃つとは卑怯ですね。死になさい」

姿が見えているということは能力を使うことができる。そのことを伝えたかったのだが……時はもう遅い。
 矢向がナイフで刺されて崩れ落ちるのと同時に

「あぁぁぁぁぁ!」

冴里も同時に倒れる。倒れていく姿を片目で見ながら、数時間前の会話を思い出した。

「いいか? 敵に遭遇したら極力逃げろ。回収地点までは逃げろ。回収チ
ームが来たらすぐに冴里を預けないといけないぜ。記憶劫盗(コギト・エルゴ・スム)は便利な能力だが、下手をすると傷ついた時の意識を受信して……本人以上のダメージを負うという欠点があるから。本人も気づいていると思うが……何年かばかし使ってなかったから慣れてないだろうし、前よりも強力になっているらしいから。だから、護衛の時は一対一じゃないと駄目だぜ」

とカッコよく師匠が言っていた。

「おやおや、これで死なれたら困りますよ。冴里さん」

ジャックはやれやれと肩をかしげると、ナイフを構えた。
冴里に失礼だけど荷が下りた。存分に過激な作戦を使うことができるぜ。
アドレナリンが体中に回って、少し師匠みたいになったかもしれないな。