複雑・ファジー小説

Re: The world of cards  プロローグ更新 ( No.2 )
日時: 2012/09/10 23:32
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

一章 第一話『カードの行方』


『なぁ、殺戮についてお前はどう思う』

 ———。

『そうか。それなら、お前にはこれを受け取ってもらう』


 ———?

『何も知る必要はない。だが、決して失うことは許されない』

 ———! ———!

◇ ◇ ◇

「……なーんだ、今のはあの時のかぁ」

 歩を進めるたびに、彼女の綺麗に結われた金髪が左右に動く。笑顔のままそう呟いた彼女の声は、強い日差しを落とす空に解かされた。彼女の眼前に広がるのは、空虚な世界。
 けれど、雨も降れば台風も来る。何よりも自然が豊富にあった。場所は東京だというのに、高層ビル群の狭い間から木々が顔を出し、成長をする。
 連日ニュースでも、よく取り立てられることが多い内容だった。

「む。やぁフラッパー。キサマに出あうとはワタシの運は、ないのかもな」
「ちょっと! 今二つ名で呼ばないでよ! 敵が来ちゃったらどうするつもりなの?」

 フラッパーと呼ばれた少女は、本心からなのか焦りを出し抗議する。それを受けても、もう一人の少女は顔色一つ変えることがない。無言で“だから何だ?”と、訴える。
 それを察したフラッパーと呼ばれる彼女は、静かに黙り込んだ。

「キサマ、さっきあの時のことでも思い出してたのか?」

 長い黒髪で作ったフィッシュボーンが、風でふわりと揺れた。彼女はフラッパーを横目で見ながら言う。図星をつかれた、フラッパーはぎょっとした顔を少女に向ける。それだけで説明は足りたようで、小さくため息を吐き少女は言葉を続けた。

「キサマの表情は、分かり易く面白みに欠ける……。同じトランプマークの所有者、ルーン・レッドスカーフだったか。
 久々に面白いヤツと出会う事ができた、一応感謝はしておいてやる。取り敢えず、オフ会場まで一緒に行くかい?
 それと、ワタシの名は由比 天照(ゆい あまてらす)。同じハートの人間だ、よろしくな」

 少女は薄くニッと笑い、自分のペースで歩き始める。一定のリズムでざっざっと砂埃を舞い上げる。東京という名の虚無都市の地面は、コンクリートさえも使い物にならない状態であった。
 ハッと我に返り、後にルーンは付いていく。少し距離が開いていたため、追い付くまでは小走り状態だ。走るたび、足の間に迷い込む裾が少し邪魔くさく感じる。
 けれど、目の前をゆく少女が同じハート使いであることが、小さな心の支えになりそうだと、心の片隅で誰にも気づかれないまま思う。それが普通の“信頼”ではなく、“壁”としてだ。
 そのことはルーン自身、一番良く分かっている。

「あら、そろそろじゃない?」
「そうみたいだ」

 廃れた道と、きれいなビルの間を進んださきには砂漠にあるオアシスを思わせる風景が広がっていた。そこには、仮面を被って素顔を明かさない人間が何人もいた。
 集合時間ギリギリに到着した、素顔を見せる二人に視線が集中する。片目だけ見えているもの。鼻から下が見えているものなど、様々な仮面。
 だが誰もすぐ興味をなくしたのか、異次元雰囲気を漂わせる巨大な時計塔。全員が全員、それを見つめていた。静かに、静かに。早く時が経つのをしっかりと待ち続ける。

Re: The world of cards  一話更新キャラ募集中 ( No.3 )
日時: 2012/07/28 10:10
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: cqAdOZIU)

「素顔出しか……それもまた面白いっていうところなのか?」

 小さな声で呟かれた声で、呟いたのが男であると理解できた。けれど、その後からの音声は一つも生まれず、全ての電源を切ったようだった。ルーンはその中で、自分より小さな子を見つける。
 その子もまた例外ではなく、キャラクタ物のお面を付けていた。夏祭りの屋台で売っているような、目だけ穴が開いているタイプのものを。

 不意に空が翳(かげ)りだし始めるのが分かった。同時に地面が割れるような地鳴りが、空から聞えてくる。青い空が、半分に分かれるような音。それは、轟音と呼べるほどの音量ではなかった。
 その音の大きさに仮面を付けた者たちは、たまらなくなり耳をふさぐ。低い唸りと共に甲高い音が耳を貫く。耳をふさがなければ、鼓膜が破れるのではないかと思われるほどだ。

「ヤァ」

 全員が見ていた時計台から——ではなく、彼等が予想もしなかった時計台の直線上に位置し、彼等の後ろに位置する噴水。そこから、聞き覚えのない声が聞えたのだ。
 時計台や空、苦悶に目を瞑っていた彼等はいっせいに噴水を振り向く。だが、そこには誰もいない。

「コッチ」

 今度は片目を出した仮面を付ける者のそばから。

「ホォラ」

 次いでは両腕を組み、めんどくさそうに壁に凭れているものの直ぐ横で。
 得体の知れない“彼”は、瞬きをするほど短い時間で至る所に移動する。全員彼が移動するたびに、驚いた表情を声が出るほうへ向けていた。嘲笑うように彼は動きを止めない。

「——成程。興味はないが、お前があの時の声か」

 男が口を挟む。それは最初に沈黙を破った男の声であった。その声にはどこか生気が見受けられなく、何かを諦めているかのような声色。その言葉に、彼は動きを止める。
 それは空気でほとんどが感じ取れた。彼はゆっくりと、人の目に付かない細いビルの隙間から現れる。例によって仮面を付けており、それは道化師を思わせた。
 細く湾曲した目の部分。色は白く、赤の涙、黒の星。顔が見えないからか、ジョーカー使いと思われる青年は平均よりも格好が良く見える。だが、誰もそれは口に出さない。
 理由は明瞭であり明確だった。

「へぇ。あんた凄いね、わかるんだぁ」

 くつくつ笑いながら、青年は言う。『あの時』が何なのか、全員がそのときに熟知した。 
 普通に生活をしていた、ある時の夢。殺戮についてどう思う、そんなことを聞かれた。それは今も記憶に残っているほど刺激を受けたものであった。

「呼び出したのは、僕だよ諸君。
 僕は君たちに再度問いたかったんだ、殺戮に馳せる思いを!」

 全員が囲む中、両手を広げ話し始める。表情は……きっと夢見る子供のように無垢であるのだろう。

「僕は察しの通り、二人のうちの片割れさ。——ジョーカー使いのね。僕は夢を見たんだよ。
 君たちが死に、散っていく様を。それでもなお僕と相棒がこの地に足を下ろしている様を! それってさ、すっげーつまらないと思うんだよね。
 この世界に、僕一人だけが生きているのと同じくらいの虚無感が生まれるんだぜ? これほどつまらないのは存在しねー。
 そう考えるとさぁ、楽しみたくなる! 僕と相棒と、共に生きていく人間の存在が嬉しくなる! 一緒に生存していたくなる!
 だから、だからだよ! 態々相棒の能力を使ってまで、君たちに話しかけたのは!」

 徐々に熱くなる青年の話に、心を動かされるものはいない。けれど、青年はさも楽しいように話を続けた。

Re: The world of cards  7/16更新 ( No.4 )
日時: 2012/07/28 10:20
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: cqAdOZIU)

「っと、話がそれたかな? つまりだ、今日君たちに集まってもらったの理由は一つ。僕と相棒を殺してくれたまえよ! このつまらない世界から、ジョーカーの存在を!
 ……だから君たちに送ったんだよ。あの夢と一緒にトランプたちを。もう能力に醒めた者はいるかい? いたなら、それは固有のものってこと覚えておいてよ。
 誰にも使えない、君たちだけの能力。唯一僕と相棒を殺せる技、とでも言っておこう」

 そう告げた彼は、聴衆の前で仮面を取る。うつむいた状態から、頭を左右に振り髪をかき上げる。ふんわりと頭を包み込む、ブロンドの髪。
 カンバスに描かれた美しい絵画の、天使を思わせる風貌。その風貌からは考えられないような、切れ長の瞳が現れる。
 けれどそれは恐ろしいという感情は表に出さず、全員に不可思議な感情を抱かせた。この青年に教師がいれば、『彼はこのような事を目論む子では、決してない』と断言するほどだ。

 それほど、彼が悪い人間には見えないことを指していた。何処にでもいるような、普通の高校生。第一印象は、ほぼそれで固まっていた。

「驚いた? まぁ、それもそうか……。僕みたいな真面目そうな子が、ジョーカーじゃないだろうなーって感じ?
 そう思われても、仕方ないよねー。私立啓南大付属校の人間だし」

 彼が名前に出したのは、この地区周辺にある最難関と呼ばれる新学校名。それに、周囲が自然とざわつき始める。そのざわめきを面倒くさがるようなそぶりを、ジョーカーは見せた。人を外見で判断するなと言いたげに。

「ジョーカーに問う。お前はそれだけが目的か、否か」

 ジョーカーの言ったことを確信していた男が、再度口を開く。その男はジョーカーの発言を待たず、自分の仮面に手をかける。片手で顔を覆い、仮面をはずす。中から出てきたのは、街で歩いていそうな社会人。けれど、決して知的とは印象付けられない。
 目が見えないだけで、此処まで表情が読めないのかとある一人は呟く。口の中で呟いたものは表には出ず、そのままつばと一緒に飲み込んだ。ジョーカーは、見るなりニンマリと笑みを浮かべる。面白い人間が居たもんだと、言わんばかりの笑み。

「俺は卒塔婆 雄大(そとば ゆうだい)。貰ったカードはスペードだったよ。ジョーカー、一つ聞かせてもらって良いかい?
 お前の目的は、俺たちがジョーカー二人を殺すこと、そだけなのかい?」

 だるそうに、雄大は言葉を放つ。その問いにジョーカーが答えたところで、自分には関係がないと思っているかのように。