複雑・ファジー小説
- Re: The world of cards 7/27更新 ( No.7 )
- 日時: 2012/07/29 22:10
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: zXyKVICa)
「おやおや。どうしてそんな下がっていくんだい? あー、もしかして僕が信じられない……か。
んーそれならどうしようか……。どうしたら、信じてもらえるかな? 僕これでも短気で心配性で仲間思いだからさぁ、結構今悩んでるんだよ?」
学芸会の発表のように、型にはまった状態であごの下の手を当て楕円を描くように、涼はゆっくり歩く。周りにいる者も、真日璃も確実にその様子に引いているのが窺えた。
だが、涼は気にする素振りは一切見せない。既に自分だけの世界に入り込んでいた。徐々にエスカレートしていく涼に、ほぼ全員が先ほどのジョーカーを思い浮かべた。
狂気と狂喜に歪んでいくような声色。悦に浸り始める表情。大げさになっていく動作。全てにおいてジョーカーを意識しているような、寧ろ涼自身がジョーカーと同じ思想を持っているようだった。
本当に悩んでいたのは最初だけで、現在になれば同じように楕円を描きながら、一人で呟き笑う。薬物の中毒症状が出て、意識が可笑しくなっている人のようだ。
昔非行防止教室で見た、覚せい剤使用のDVDを見たことを真日璃は思い出した。
まさに、今の涼がその通りだと言わんばかりに蔑みと非難が混じった視線を向ける。周りに居る、彼らもそうだ。
「ちょっと! 気持ち悪いこととか止めてよね、ほんっと鳥肌なんだけど……」
目の部分が赤いハートの模様になっている仮面を付けたプレーヤーが、堪らなくなり声を上げる。同時に、ピタッと涼の動きが止まった。
「……君は、ハートの人間? それじゃぁ、関係ないんじゃないかな。僕は同じマークのAと話してるんだよ。同じダイヤの。
ジョーカーは殺しあえって、言ってたよね。じゃぁ僕が君を殺しても、このゲームに差し支えはないんだろう。
そしたら、今すぐに殺してしまおうか。うん、そうしよう」
にっこりと微笑みながら、涼はゆっくりとハートのカードと推定したプレーヤーに近づく。身長だけで見ると、おそらく年齢は10歳ごろかそれ以下だろう。
ただ、このゲームに年齢は関係ないということをほとんどのプレーヤーは理解している。殺しあうだけ、最後に残ったプレーヤーだけが存在することを賭けて、ジョーカーと対峙する。
それでジョーカーを殺せず、返り討ちにされればゲームオーバー。金輪際、新たにゲームを始める以外はプレーヤーは存在しなくなる。永遠にジョーカーがトランプに縛られたまま。
もし、そんなことになってジョーカーの命が朽ちたとしても、カードは使用者を縛り続ける。これは他のプレーヤーの知らない、ジョーカーだけが知っていることである。
ジョーカー以外のトランプも等しく同じ力を持つ。ジョーカーを殺したプレーヤーが、トランプを全て集め封印するかどうかしなければ、一生プレーヤーはトランプに縛られる。
死して尚、生に縛られるのだ。