複雑・ファジー小説

Re: The world of cards  08/11更新! ( No.22 )
日時: 2012/08/12 01:47
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: USKm1lhL)

 にぃっと歪笑を浮かべる涼に、宗勝は呆れたようにため息を吐く。

「おまんのせいやが。一日でこげため息ついたんわ、生まれて初めてやっちゅうの……。んで、オレを殺すとかほざいちょったが、オレ円満に終わる方法見つけたんじゃけぇ、聞くか?」

 相変わらず意味の分からない言葉を発した宗勝を、そのままの表情で涼は見続ける。後ろから様子を察した真日璃は涼にしっかりと聞えるように、翻訳したものを聞かせる。
 笑顔で振り向くことはしなかったが、下のほうで小さく握った手の親指を上に向けた。それを見てから、真日璃は安心したように小さく息をはく。

「それで、その方法って?」

 小首を傾げながら、涼は宗勝に問う。
 そんな涼を見ながら宗勝は意味深げな表情を浮かべ、口を開いた。

「———」

 すっと顔を涼の左耳に近づけて、他に聞えない声でぼそりと宗勝は言った。一瞬にして涼の顔は青ざめ、何を言ってるのか理解できないといったように、少し大きくなった瞳が宗勝の横顔を捉える。
 宗勝も少し顔を引き、横目で驚愕した表情の涼を捉えた。口元には勝ち誇ったかのような、笑み。

「さっきの事を実行するんわ、オレにははっきり言って簡単なことやぞ? つい最近付けられた二つ名みたいなもんがあったけぇ、なん言っとったかな……」

 握った手を自身のあごの下に付け、考える人に似たポーズをとる。思い出すために俯いた宗勝の足は、一定のリズムを刻む。タンタンと思いのほか高く響く音を、周囲に聞かせながら宗勝は静かに頭をフル回転させる。

「あ、思い出したわ。確かやが、『不屈の鳴動』だ。
 ——さてと、面倒な言葉遣いはやめにするか。……で、餓鬼。どれ位痛めつけて欲しいか、今すぐに答えろ。餓鬼の教育なら、体罰関係無しにオレぁやるぞ」

 先ほどとは全く異なる、低い地を這うような音が涼を含めた周りのプレーヤー達の耳を貫く。全員が全員、その声に驚愕を覚えた。それは空気を通して宗勝にも伝わる。瞬間的に広がった驚愕の波。
 音速で届いた、今此処にいるプレーヤーの纏まった感情。

「ね、ねぇ」

 涼が口元をうっすらひくつかせながら、宗勝を見上げる。宗勝の口は開かなかったが、涼は一度口を閉じる。緊張から乾ききった口内に生まれた微量の唾液を、ごくりと飲み込む。
 喉が上下するのが、宗勝の目に入る。

「僕を殺したいんだったら、殺せばいいよ。どうせ、誰かはいつか死ぬんだからね」

 クスリと笑い、涼は続ける。

「ただまぁ……今は失礼するねー。ちょっと、まだ君と戦って勝つには時間が足りない気がするんだよねぇ……。
 だから僕は今君と戦わないよ、それじゃあねっ!」
「あっ、てめっ、待てよ!!」

 言うが早いが涼は何処からともなく出した爆竹のような物を地面にたたきつける。瞬間的に噴出した黒い煙幕に、涼の姿が隠れる。その煙幕は目の前にいる宗勝だけではなく、周りのプレーヤーたちも包み込み、辺りは黒の煙で包まれた。
 
 
 煙幕が薄れ、しっかりと前を見ることが出来たときには既に涼の姿は見えなくなっていた。
 同様に、真日璃も姿を消していた。