複雑・ファジー小説

Re: The 略 09/08更新 参照1000突破感謝です! ( No.39 )
日時: 2012/09/09 11:28
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「私は玖月 朔夜です。中学生ですけど、よろしくお願いします」

 しなやかに浅く一礼をする朔夜の姿に、思わず全員が目を奪われた。ゆれた美しく、長い黒髪。ふんわりと前後した黒のスカート。なめらかで肌理(きめ)細やかな細く白い腕。全てが、美しい高級品のようだ。
 一瞬。たった一瞬が、数秒にも数十秒にも感じられる。

「……次、あなたじゃないのですか?」

 顔を上げ不思議そうな顔を浮かべていた朔夜が、切れ長の瞳を左にスライドさせ、菫を捉える。見惚れていた菫は、慌てて目線を朔夜から外し、香住と月に目線を送った。そして苦笑交じりに口を開く。

「俺は、霧月 菫。よろしくな、一応高校一年生やって“た”んだ」

 菫の過去形の発言に、月や香住は首を傾げる。高校一年生だとすれば、現在菫は十六歳。ただやっていたのが、数年前のことであれば十六歳ではない。
 二人が思考をフル回転させている最中に、菫は立ち上がりぐーっと体を伸ばす。最初に背中を伸ばし、その後に前屈をする。眠気が少し出てきたのか、最後に欠伸をしていた。

「お前、今何歳だ? 高一やってたって、今何してんだよ」

 もっともな感想が、月の口から飛んでくる。菫は「普通に十六歳だけど……?」と呟いた。ソレを聞いて、月が出会ってから初めて盛大なため息を吐く。
 香住だけに、月のため息の意味が伝わった。菫と朔夜には分からないようで、二人とも月の顔をじっと見つめる。目線で「どうかした?」と聞いているのか、月は怪訝そうな表情を見せた。

「あたしが、説明するよ。月は、食器棚とか冷蔵庫に何があるのか確認してて」

 分かったと、月は端的に告げて少し不機嫌そうにキッチンへと向かう。何となく重たい雰囲気から逃げるように、アセスリエンは月に付いてキッチンへ移動した。
 月とアセスリエンがキッチンに着いたのを見て、香住はキッチンに向いていた瞳を、菫たちに合わせる。最初に放ったのは「ごめんね」という言葉と、矢張り無邪気さが残る苦笑いだった。

「月に、悪気は無いの。ごめんね……。ただ許せないだけなんだべなって、あたしは思ってる。
 元々月は規則とか規律には絶対に背かない人だったんだよ、月は。それに炭鉱組みの兄貴分でもあったんだよねー、月。
 だからきっと、許せないんじゃないかな。高校、きっと中退したんでしょ? 許せないんだべさ、それが。ため息ついた原因、それじゃないかな」

 最初は私とも喧嘩ばかりだったんだよ。そう付け加えて、ニッコリと笑う。最初に見せた申し訳なさそうな苦笑いと、最後の満面の笑みとのギャップに落ちてしまう男は少なくは無いだろう。
 冷静に朔夜はそう分析していた。菫も何処か照れながら、受け答えしているようにも見える。

「終わったぞ」

 キッチンから月の声が聞こえる。

「それじゃぁ、行くべ。朔夜ちゃん、菫くん」

 立ち上がりながら、香住は言った。

Re: The 略 09/08更新 参照1000突破感謝です! ( No.40 )
日時: 2012/09/11 16:51
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)
参照: 小説図書で。五話更新ではなく、四話更新中だった件……。

 歩いて一時間弱、走って五十分強の場所に建設された大型スーパーセンターが、四人の視界に入る。自動車が普及しているはずなのにも関わらず、このスーパーセンターには駐車場や駐輪場は無い。鉄道なども普及して入るが、最寄の駅までは徒歩で二十分前後かかる。
 周りには住宅街が立ち並んでいるため、このような配慮をしていると市の方から数回ほど通達があったのを、菫は覚えている。けれど実際にはそういった理由ではなく、万が一に備えての仕組みであると、昔何かのテレビでジャーナリストが発言していた。

 遠くからでも分かる大きさ。スーパーセンターには似つかわしくない、独特の威圧感が此処にはあった。香住はごくりと緊張で締まった喉に、唾液を滑らせる。

「まるで誰も寄せ付けないRPGゲームのラスボスに挑むような感じだな」

 乾いた笑いをしながら月は言った。思わず香住も頷いてしまう。それに否定的だったのは、菫と朔夜だ。良く来るというスーパーセンターに今更恐怖心とか無いかと思えば、最初から緊張した事は無いと言っていた。
 月と香住は半信半疑であったが、近づく大型スーパーセンター【スーパーA(えい)】へと、意識を移していった。何か起きるのかも分からないため、慎重に歩を進めていく。

「何してんだよ、何もねぇってば。早く行こうぜ、買う物いっぱいあるしな!」

 呆れた口調に、朔夜も「そうですよ、急ぎましょう」と同調した。二人は気が進まなかったが、菫たちの言うように何もないから、と納得する。時間は午前四時四十四分を回ろうとしたところだ。
 スーパーAは二十四時間営業だから心配することは無い。と事前に告げられていたため、何も迷うこと無しにスーパーAの敷地内内へと足を踏み入れた。

『ビービービー!! 侵入者発見! 侵入者発見! タダチニ隊員ハ出動セヨ!
 ビービービー!! 侵入者発見! 侵入者発見! タダチニ隊員ハ出動セヨ!
 場所ハ、エリアB! タダチニ捕獲シ、連行セヨ!! ビービービー!!』

 初めて聞いた警報サイレンに、菫と朔夜は唖然となる。今まで一度も起こったことの無い現象であったからだ。その様子を見て、月と香住はそれぞれ次に起こり得る展開を予想し、臨戦体制をとる。
 
「かかれぇぇええええ!! その二人は逮捕状が出ている被疑者だ!! 貴様らぁああ! 死ぬ気で捕まえろ!!」

 スーパーAのありとあらゆる出口から、武装した警官達が現れる。中には自衛官の姿も見受けられた。菫は思わず「んだよあれ!!」と叫び、月同じように臨戦態勢をとる。それは朔夜も同じだった。

「香住! 前線はお前に任す! 俺が止めてやるから、だから全てを朱に染め上げて来い!」

 Tシャツの裏から肌とズボンの間に挟んでいた大きく長い刀を取り出しながら、月は叫ぶ。返事をしないままに、香住は敵の前線へと躊躇無く突っ込んでいく。その様子を平常に見ていられるのは、月だけだった。菫と朔夜は、女に何をさせているのだと言いたそうな様子で月を睨む。
 月は、香住から視線を外さず二人の鋭い視線を感じながら口を開いた。

「——見ておけ。……あれが俺ら道民を救ってくれる少女の姿だ」

 ぽつり。まるで世界の平和が訪れたことを喜ぶ人のように、香住を見た。月には香住が光に突っ込んでいく、英雄のように写っているのだろう。菫と朔夜には、広い敷地内の一角へ走っているだけにしか写っていなかった。
 けれど反論をしようと開けた口は自然と塞がり、どうしようもない感情を押し付けたままに香住の背中を見つめていた。その中で、香住は大きな声を上げる。

「深淵から来た凶暴な神よ、私を——喰らえ!!」

 その瞬間香住の体は常人離れした跳躍力を見せる。蹴ったコンクリートは蹴られた場所を中心に、ぼこりと凹んだ。驚く菫と朔夜をよそに、月は「きたか……。こっちは守ってやる」、しっかりとそう言い香住に対して臨戦態勢をとった。

Re: The world of cards 09/09更新 ( No.41 )
日時: 2012/09/11 21:48
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「アハッ……アハハハハハハハッ!! 馬鹿の一つ覚えみたいねぇ……。そんなんじゃあたしの事、捕まえられないわよ?
 ——“チェック=エンド=チェイス”」

 豹変した。

 それ以外に今の香住を、分析することは出来なかった。ただ殺生を止めようとしそうな少女が、冷酷無慈悲に、飛び散る赤が綺麗だというように、長く伸びた爪で人間の束を蹴散らしていく。深く防弾チョッキを着けた胸に、穴を開ける。
 じんわりと滴る、赤い血。大勢の苦痛に歪み路上に倒れる警官たちを、香住はこれでもかと言わんばかりに止めを刺し、喉と耳を喰らっていく。意識がある内に首を喰われた者や、耳を殺ぎ落とされた者は、ただ悲痛な悲鳴を上げるばかりだった。

「あれが、香住……なのか?」

 信じられないと言う様に、菫は乾いた喉に少量の唾液を滑り込ませる。上下した首には、どっと冷や汗が浮き出ていた。朔夜はうっすら冷や汗をかいているものの、菫以上の動揺は見せずにしっかりと臨戦態勢を整える。
 何が起きても良いように、その瞳は香住だけでなく、血を流し悶絶している警官たちや、香住に無謀にも挑んでいく自衛官や警官の全てに注がれた。

「ンン……。やっぱり美味しいわね、生の肉と血の鉄の味って。あァあ、あたしもコッチの世界で一生食べて暮らしていたいわァ。
 あの小娘ったら、いつもいつもへらへらしてるんだから」

 言葉を発している最中にも挑んでくる警官たちを、『香住』は容赦なく蹴散らしていく。殴り、蹴り、鋭敏な刃物のような爪で肉を裂き、食べ、体を突き刺す。そこには躊躇の一つも見られない。
 『香住』が警官たちの返り血に塗れ、『香住』を中心に気味悪いほどの屍が転がっていくのに反比例し、『香住』を捉えようとする警官たちは減っていく。月にとってそれは良い事でもあったが、悪いことでもあった。

「全員、香住を殺す覚悟持っておけ。そうじゃないと、俺たちが喰らわれておしまいだ」

 端的にそう告げ、握っていた長刀を更に強く握り締める。柄と手の皮膚が接触している部分は、赤く赤く変わっていく。何も言わずに、菫と朔夜も同じように、全ての集中力を『香住』へ向けた。『香住』を殺すことは無理でも、できる限りその行動を受けとめる。その覚悟は確かに全員にあった。

「先に言っておく。此処からは、俺たちが全滅するか、香住から元凶を剥ぎ取るか、香住の意識を戻すか。そのどれかだけ考えておけ。
 何があっても、動じるな。全神経を香住に注げ。下手すりゃ本当に俺たちが喰われるぞ」

 次から次へと喉を喰らい、耳を殺ぎ、心臓に長い長い爪を衝きたてる『香住』への視線を、月は一度も逸らしはしない。忠告をしている最中も、喉を喰らっているときも。どんな瞬間も全てを記憶するかのように、瞬き一つしなかった。
 それは朔夜や菫も同じで、視線を逸らそうとはしない。例え残酷な場面だとしても、その全てを見続ける。初めに見た、人間離れした跳躍力。今もまた人間離れした肉体強度と、精神状態、運動能力を手に入れていた。
 誰も反応できないコンマ数秒という短い時間で、何人もの屍が増えていく。

 そしてついに、生存者数が『香住』を含めた十五人となった。

Re: The world of cards 09/11更新 ( No.42 )
日時: 2012/09/12 15:20
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iAb5StCI)

「う、うわあああああああああ!!! ばっ、化け物だあああああ!!」

 そう叫んだかと思えば、『香住』に臨戦態勢を取り続ける三人以外の生存者、自衛官警察官含め計十一人が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。血相を変えて、誰よりも早くスーパーA内部に入ろうとしていた。

「ちょっと待ちなさいよォ……。まだ、終りじゃないでしょ?」

 『香住』は、またも人間離れした速度で、逃げる男の一人を後ろから抱きしめるように捕まえる。そして男を諭すように耳元で吐息交じりの色っぽい声を出した。ふっと優しく耳にかかった吐息に、恐れを成していた警察官の股間がゆっくりと勃起し始める。男は冷や汗をどっとかき、恐怖で体を強張らせながらも、美しく嫌になってしまう程色っぽく艶めかしい声に、快感を感じるしかなかった。

 膨らむ股間を見て、『香住』は悪い笑みをニンマリと浮かべる。そしてそこに、長さ三十センチは有るであろう左手の鋭敏な爪の先端を、触れさせた。弾丸をも受け止める防弾チョッキを着ながらも、その爪の感覚に男は体を反応させる。
 膨らむ防弾チョッキの下の勃起したモノをなぞるようにして、爪を上下させたり左右に動かす。それは過度の快楽を生まなかった。男が股間への執拗な責めに悶えている間に、『香住』の右手は男の目元を手のひらで覆い隠す。

「——気持いいかしら」

 最初と同じように、左手の爪の動きは止めずに『香住』は耳元で艶やかな声を出す。勿論、男の耳には甘い吐息もかかっている。
 焦らす様な持続的快楽に、涎を垂らしながら男はコクコクと頷いた。『香住』はそれを見て「言葉も使えなくなる位気持いいのかしらァ」と、満足そうに呟く。

「まァ、気持いいなら……これも平気よねェ」
「う゛、っがッ! あぐっ、いっあああ゛あああああ゛あ゛あ゛!!!」

 膨らむ股間と、手のひらで覆っていた両方の眼球に『香住』は躊躇無く長い長い爪を突き刺した。眼球に差し入れた爪は、大量の血液と脳の断片に纏われたまま、後頭部の頭蓋骨を突き破り『香住』の眼前へ現れる。その爪を、そのまま円を描くように動かした。動かすたびに、大きな悲鳴が『香住』の耳を反響する。
 股間に突き刺した爪も、体を斜め貫通し男のせき髄(ずい)を貫通させていた。直に神経を触られる感覚と、貫通した骨の穴を広げようとする痛みで男は既に失神してしまっている。『香住』は失神したままの、生きているその男の首元に自身の口を近づけ、大きな口を開けた。

「ん……グッ」

 ——ブチブチブチ。

 生で皮膚が千切り取られる音が、『香住』と男を凝視していた十人と三人の耳に響き渡る。大きく開いた『香住』の口には、口内に収まりきらないほど巨大な肉片がくわえられていた。
 男の首元は広く深く陥没し、骨の白みが見え隠れしている。横から無理やりに千切った男の喉は、まだぴくぴくと痙攣を続けていたが、それも直ぐに動かなくなった。
 それを確認して『香住』は男に突き刺していた爪を全て抜く。どさりと、重力に逆らわないままに男はアスファルトに突っ伏した。

「さァ。次は誰を食べていいのかしら……」

 くっちゃくっちゃと音を鳴らしながら『香住』は少しずつ男の首の肉を食べる。ぐるりと視線を一周させた『香住』は、ターゲットを決めニンマリと笑った。