複雑・ファジー小説

Re: The world of cards 10/29一時保留 ( No.75 )
日時: 2012/10/30 23:47
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
参照: さぁ! これから見せます首切処刑!

「それじゃあ、場所は如何しようか。ここら一体の人間たちはいないから、この町を使おうかな」

 どうせ壊しても、勝手に直ってるんだろうし。樹絃はぐるりと三百六十度を眺めた後、言った。菫たちがゆっくりと樹絃の元へ近づいてくるのが、月の視線に入る。どこか浮かない顔を浮かべていたのは、月の知らない男だった。
 その男をじっと、月は見詰める。誰なのか、それを視覚だけで確認していく。何処かで顔を見た覚えも無ければ、何処かですれ違った覚えも無い男は、どれだけ見つめても誰なのかは分からなかった。むしろ、分かろうとする事が馬鹿げていた。

「この町は……どうして、人がいないですか」

 閑散とした町。
 音もなければ、光は太陽の日光だけ。
 大型スーパーも今日きてみれば、ただの権力を所持する暴徒の巣。

 それに疑問を覚えていたのは、月も香住も一緒だ。初めて来たこの町だったが、何処か小さな違和感が存在していた。何も無く、本当に楽しければ明るい視界だったのだろう。けれど、二人の視界は灰色がかっていた。全体的に灰色の、不思議な霧(キリ)のような何か。
 きっと、その霧のような何かは、背景にフィルターを掛け様としていたのだろう。全てが見えないように、じんわりと視界の半分以上を埋め尽くした記憶だけを、脳の引き出しにしまいこんだのだ。

「簡単じゃないか。赤字国家として名高い日本国政府が、町ごと買い取ったんだよ。君達がアンダーワールドの反逆者となって直ぐに、ね。
 まぁ示唆したのは、僕と切り裂き巻くんだけど。ね、切り裂き魔くん?」

 既に樹絃の右横に居た“切り裂き魔くん”は、「ああ」とか細い声を出す。深く被ったキャップのせいで、口元しか見る事が出来ないようだった。

「分かりやすく教えてあげる。僕らは、君達の味方でもなければ、日本国政府の味方でもない。僕ら自身の、味方なんだ。
 だから反逆者である君達二人は、まだ捕まっていない。黙って匿っているそこの二人に、危害が加わらない。そっちの男の人は……、ああ。殺された無様な彼らの、お仲間さんかぁ」

 くすくすと笑いながら告げた樹絃に、恭助意外は呆然とするほか無かった。今回ばかりは、本当に言っている意味が分からなかったのだ。樹絃が、まるで全てを知っているかのような物言い。それも全て、自分が元凶だと、言わんばかりの態度で。

Re: The world of cards 10/30更新 ( No.76 )
日時: 2012/11/01 23:05
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
参照: 王は自らを王と言わない。

「何であんたが自分だけの味方なら、月と香住は捕まんないんだよ」

 切り裂き魔くんの後ろから、菫が不思議そうに問いかける。それもそうだろう。会った事も無い二人組みと、月、香住の接点はあるはずがないのだから。会った事があるとすれば、記憶の片隅にでも二人は覚えているだろう。
 ああそんな事、樹絃は呟いてぐるりと後ろを振り返る。朔夜と菫は、瞬間的ではあったが臨戦態勢を取ろうと筋肉に力を入れていた。ハドソンは右手を腰のホルスターに伸ばしていた。

「ゲームメイクをしているのは、僕と切り裂き魔くんなんだよ」

 ニッコリと笑い、樹絃は続ける。

「という事は、僕と切り裂き魔くんの気まぐれで誰を殺すかを決める事が出来る。コレはつまり、だ。僕と切り裂き魔くんがゲームマスターで、君達がただのプレーヤーであることを指している。
 日本国政府を敵にまわした二人の脱走者の居所なんて、今直ぐにでも首相に伝える事だって簡単な時代さ。僕の場合は、色々とツテに頼った面もあるんだけど。
 それにね。今僕達が匿名メールを他のプレーヤーに送れば、直ぐに彼らは君達を殺しに来る。
 趣旨も分からないままに参加している君達に、ゲームで生き残る術なんか残らないんだよ。分かる? これが僕達が作ったゲームの形さ」

 樹絃はそこで一息ついた。次に口を開いたのは、切り裂き魔くんだ。

「……世界は理不尽で、退屈で、窮屈な空間だ。それを打開しようと策を講じることの、何が悪いのか。俺には判断しかねる。殺し合い、血に塗れあい、それでもなお上の地位の確立を目指すのは人間の本能の一部でもある。
 そう考えれば、こんなゲームをクリアするのは簡単だと、俺は思った。が、そうは思わないプレーヤーも中には居るんだろうな」

 切り裂き魔くん——恭助——が視線を流す。ハドソンを含めた樹絃以外の全員が「ふざけるな」、そう言いたげな視線を向けていた。死んでも勝ってやるとでも、思っているかのような眼。目の前に居るものの全てを狩り、頂点に君臨する肉食獣に近い眼。

 ——ぞくぞくするじゃないか、もう。

 脳の中に樹絃の言葉が響き渡った。今言った言葉ではなく、昔、出会った間もない頃に発した言葉だ。世界をトランプが統べる物にしたらどうだろう。そんな小さな思い付きが発展していったとき、軽く嫉妬するような口調で。
 淡々と樹絃が述べた言葉。今の状況に合致しているみたいだな。そう恭助が返事をすれば、樹絃は驚いたように恭助の顔を見て微笑を見せるのだ。美しいブロンドがゆれ、眩しい笑顔が世界を包む。

「説明は終わりで良いかな。他のことは、勝負の最中にでも聞いて欲しいかな。取り敢えず、どれくらいのギャラリーが集まるんだろうね」

 楽しそうに笑いながら、樹絃と恭助は自身のジョーカーのトランプを取り出した。

Re: The world of cards 11/1更新 ( No.77 )
日時: 2012/11/03 22:44
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
参照: 王は自らを王と言わない。

 その様子を不審に思い月たちは樹絃と恭助を見る。ジョーカーのトランプを出した以外に、特に行動を取ろうとしない二人に不信感が高まっていく。

「ワン、トゥー、スリィ……舞え!」

 楽しそうな声で樹絃がトランプに向かい叫ぶ。瞬間、辺りは煙に包まれた。真っ白な、砂埃のような煙。一寸先が見えないほどの煙が、全てを包み込んだ。

「さぁ、先が見えないよ。この戦いは——きっと、そういうものになる」

 煙の中で響いた声を始まりに、戦いの火蓋が切って落とされた。

 ◇ ◇ ◇

「あっ! ねーねー、こうしんしてあるよ」

 明るく広いカフェでブログをチェックしていると、更新された新規ページが映し出された。カウンターに置いた雷様が持っているよりも可愛らしい“でんでん太鼓”。声を上げた少女は、何故かだるまの着ぐるみを着ていた。
 それを別に可笑しいなどと言って笑う人は、もういないようで、満員まで入店しているカフェではそれぞれがそれぞれの話をしている。

「本当かい? ちょっと今手が離せないから、ラムネード読んでくれるかな」

 学ランを腕まくりし口元を白いマフラーで隠している青年が言った。マフラーには、アクセントとして赤い小さなハートの刺繍が施されている。かちゃかちゃと銀食器である、フォークやナイフ、スプーンが泡をはさんで音を立て続ける。ラムネードは「おっけー」と可愛い手ぶりつきで言い、視線をじっとパソコンの画面に向けた。

「えー……っと。今日、スーパーAにて起こった、むさべつたいりょうさつじんじけんの犯人と、たたかっています。マークはスペード、にんずうは五人ですがよゆうだと思います。
 りゆうはかんたんで、このゲームのルールをりかいしていないから。ギャラリーは、きたいだけきてくれてかまわないよ。……だって」

 画面を下へスクロールさせると、真っ白な煙の中で光る眩い光が映った画像が貼り付けられていた。これが太陽なのか、誰かの攻撃によるものなのか、画像だけでは判断する事が出来ない。学ランを来た青年は少し考える素振りを見せたところで、泡塗れのシンクから離れ裏へと戻っていく。
 その様子をカウンター席から見送り、ラムネードは違うサイトを開く。エグレウス・ジ・アセスリエンと、黒縁白塗りのタイトルが表示された。その横では、同じく白抜きの兎が存在した。

 『First』と名付けられたサイトページを開き、ラムネードはそこに書かれている注意書きを熟読する。次いでサイト管理者の情報。特に重要視している様子ではなく、メインページに移る前誰もが最初に行うことだ。
 エグレウス・ジ・アセスリエンも、ラムネードが先程開いていたサイトと同じブログである。白地に黒の文字。リンクする文字も。文字に関する色は全て黒で着色されていた。サイト名の表記以外、フォントも統一してある。

Re: The world of cards 11/3更新 ( No.78 )
日時: 2012/11/07 22:13
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
参照: 王は自らを王と言わない。

「ラムネード、行こうか。一応書置きはして来たから」

 白いマフラーの位置を整えながら、先程食器を洗っていた少年が奥から出てくる。夏に入るというのに暑くないのだろうか。長袖の黒い学ランに、白地のマフラー。本人は「口が裂けているんだよ」と言っていたのを、ラムネードは思い出す。
 そして、自分も人の事が言える容姿じゃないな、と自身が着ているダルマの着ぐるみに視線を向け、小さく微笑んだ。

「うん。ねぇ、このたたかい見終わったら、わたしきもちいことしたいなぁ」

 歩を進めてきた少年に、悦に浸っているようなトロンとした眼をむけ、ラムネードは言う。はたかれ見れば、かなりのギャップに驚かざるを得ない。“ダルマの着ぐるみを着た女の子が、学ランの男の子に盛っている”などと言われかねない状況でもあった。
 客の大半は仕事に行く前のモーニングを食べにきている人ばかりで、特に二人に注目している客は居なかったのが、幸いとでも言えるのだろう。

Re: The world of cards 11/10一時保留 ( No.79 )
日時: 2012/11/11 22:12
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
参照: 王は自らを王と言わない。

「マッサージにでも、行って来れば良いんじゃないかな」

 そう少年は告げ、押しボタンを乱暴に押す。一秒もしないうちに開いた自動ドアから抜け出し、既にある程度の温かさになっている外を歩く。それを見てラムネードも急いで店を後にする。朝からギンギラギンに、どこもさり気無さそうな様子も無く太陽は町を照らしていた。ラムネード達が住んでいるカフェは、市外にある。
 けれど客数は、昔市街地にあったときよりも増えていた。駐車スペースも広くなったためでもある。だが、それ以上に学ランの彼——ヴィンセント・ヨルガ——が住み込みで働き始めたのが、一番の原因であろう。

 荒いアスファルトに、太陽の光が反射する。キラキラと光って見えるアスファルトは、冬、限定の地域だけで観測する事が出来るダイヤモンドダストのそれと、類似していた。違うのは、下地が黒いか白いかくらいだろう。

「ラムネード、朝だし何か買っていくか?」

 不意に足をとめたヨルガの目の前には、某有名チェーン店のコンビニがあった。アニメのフェアということで、暖簾のような形でポスターが掛けられている。一部色あせているのは、強い日光のせいだろう。ラムネードは元気に肯定し、二人はコンビニへと吸い込まれて行った。
 そのコンビニで、ヨルガはパンとトマトジュースを。ラムネードはラムネと菓子パンを購入し、コンビニを後にした。一つにまとめられた袋はヨルガが持ち、最寄の公園へと進んでいく。ラムネードの手には、でんでん太鼓が握られていた。

 丁度今ぐらいの時間は通勤の車が通るようで、ドーナツ化現象を思わせるような、沢山の車が信号待ちで停車している。渋滞ではないが、目測でも二十台ほどは確認できた。ラムネードは関心しているのか、不思議な声を上げていた。
 ヨルガは朝が弱いのか、あまり眼を開けずにてくてくと歩いていく。元気に歩くラムネードは、間逆に感じられた。

「やっぱり朝のこうえんって、ひといないね」

 黄色の塗料で彩られた滑り台を前に、二人で木のベンチに座っているときラムネードが言う。そりゃ当たり前だろうと、ヨルガは内心思っていたが「そうだな」とだけ呟き、ストローでトマトジュースを飲む。独特のどろどろ感が、癖になるんだと昔友人に語ったことをヨルガは思い出す。
 皆嫌がったが、どうしても美味しいのだ。人間の血のような色で……。今現在、ヴァンパイアと呼ばれる吸血鬼らが居るのなら、きっと俺はその中の一人だと思う。他の人間たちと、犬歯の発達具合が違うし。そんなことを考えつつ、またチューっとトマトジュースを吸い込んでいく。