複雑・ファジー小説
- Re: The world of cards 参照感謝。本編保留中 ( No.85 )
- 日時: 2012/11/19 22:00
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: idWt6nD1)
恭助の取り出したカードは、月が持っているトランプとは異なっていた。柄が入っているはずの面は、なんの模様も無く真っ白。恭助は、そのトランプを左右に二回ほど振った。
「面倒くさい。破壊して、破壊しつくしてしまいたい。出ておいでよ【破壊神/ゴッド=オブ=デストレクション】」
本当に面倒くさい。そう呟いた恭助の容姿は、徐々に変わっていく。香住と同じタイプの、能力だった。つめは長く、黒くなり、先端が細くなっていく。色が変わったのは、手首付近までと、範囲は広かった。ぼうしで隠れていた髪は、見惚れるほどの金髪となり、目は瞳孔というものを感じられないまでになっている。
目の前でその様子を見ていた月だけでなく、隠れていた菫やグレゴリーも、呆気に取られていた。トランプは何時の間にか、恭助のパーカーの中に仕舞われている。
「——面倒くさいことで、小生を呼び出させたのは貴様か。若造」
声は変わっていなかった。けれど、他の物と直ぐ分かるその口調は、聴覚からゆっくりと、身体全体を侵食するのではないかと危惧するほど、威圧感が込められている。例えるならば、一匹のスズメバチが小さなミツバチに殺されるような雰囲気だ。『恭助』に現在感じることの出来る感情は、恐怖だけだった。
月は、『恭助』から発せられる威圧感と重圧を空気越しに感じながら、手に握っている太刀に、ぎゅっと力を込める。次に何が起こるかも分からなかったのだ。そのため、いつでも動けるようにと、月は臨戦態勢を取る姿勢に移っていた。
それに気づいているのかいないのか。『恭助』は、辺りを何度も見回し、何かを確認している素振りを見せる。隠れている菫たちは、息を殺し、可能な限り発見される率を下げることに徹していた。
「お前らジョーカーは、何のためにこんな殺し合いするんだよ」
じゃり、とアスファルトの上にのっていた砂が、月の靴と擦れ合う。『恭助』は考えるように瞼を閉じて、そのまま数秒程かたまった。それが何を意味するかなど、月には分かるわけも無く、ただ静かに『恭助』から視線を外さないまま、立ち続ける。
瞼を開けた『恭助』の瞳は、左半分が恭助、右半分が『恭助』と別れていた。
「……俺はただ、もう一人のジョーカーの退屈を紛らわす事が出来れば、なんでもいいだけだ。こういったゲームでなくとも、何でも良かった。
けれどもう一人が望むことは、特に可笑しいことでもなかったから賛同したまで。俺たちが死にたいと思っているのには、偽りなんかない。
俺たちは、トランプの代償でジョーカー同士、あるいは自分自身で自分に傷をつけても、何も起こらないからな。……首をつっても、一生死ぬことは許されないんだ」
恭助と『恭助』が同時に現れていることにより、話しているのが恭助でも、『恭助』との二十音声として、月の耳に届いた。恭助は一度呼吸をすると、また、口を開いて続ける。
「世界は、理不尽で、不条理で……。誰もが平等に生活できる保障なんて存在しない」
そう言い、『恭助』は思い切り地面を蹴った。
