複雑・ファジー小説
- Re: The world of cards 12/01更新 ( No.97 )
- 日時: 2012/12/01 22:14
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: nQ8cdthw)
第八話『休戦』
「もうぎょうさん集まっちょるのお……。仮面持ってきとって正解じゃった」
仮面の後ろで揺れる群青が、無人地区の家屋の間に建っているビルの屋上から地面を見下ろす。不規則に建てられた高低様々な建造物の屋根に、他のプレーヤーと思われる人が無数にいる。群青の彼の後ろには、国家秘密警察の面々が武装した状態で立っていた。
群青の彼——境地直弥であり、漆崎宗勝——は、ぐるりと半回転して仲間である国家秘密警察の武装した姿を見る。
「それ、重くねーの」
呆れたように言葉を吐けば、ヘルメットから唯一出ている口が動く。
「重たいに決まっている。だが、プレーヤーとしてゲームに参加しているお前とは違って、俺達の身元がばれるのだけは遠慮願いたいからな。それに、忘れてはならないがお前も俺達も“国家秘密警察”として動いている能力者だ。
お前とは違い、普通の、生まれてから誰もが手に入れる程度の能力に秀でているだけの、人間だ。トランプなどに頼って、もって居ない能力を手に入れることなど出来ない。いわばお前は、俺達の中の例外だ」
ゆえに、お前と同じような状態になれるわけが無い。
男が本当に言おうとした言葉は、誰の耳にも届かないまま男の頭の中でゆっくりと消えていった。直弥以外の秘密警察員たちは、ヘルメットに表示される個人情報を受け取りながら、ズーム機能を使い太刀を振るう青年の戦いを見ている。直弥もその様子を冷めた目で見、他にこの戦いを見ているプレーヤー達に視線を切り替える。
ダルマ姿、白いマフラー、フィッシュボーンに結われた髪、派手に出された絶対領域と胸元。赤いスカーフなどなど。限が無いほど沢山の個性が、揃っていた。中でも直弥の目に止まったのは、躊躇無く打ってきた子供。
「あいつ……天城涼(アマシロ スズム)か」
背負っているリュックサックに見覚えがあった。直弥はニヤリと笑い、屋上からビル内部に戻るため、歩を進める。仲間は、それに構う事無く、目の前で起こる戦いに注目している。微動だにしないところから、録画しているのだろうと直弥は考えながら、鉄のドアノブに手をかけ、ビル内部に歩を進める。
直弥が見たとき、天城の周りには沢山の人間が居た。同じ記憶にいた、叶雨真日璃(カナメ マヒリ)を含めた、不特定多数のプレーヤー。そのことから、ダイヤは、既に仲間を見つけ、コミュニティを開いている事が考えられた。既に何人か死んでいるかもしれないが、まだその可能性は低いだろう。
このゲームが始まってから、まだそんなに日が経っていない。誰が何処にいる、という情報の一切は入ってきていないのだから。となれば、矢張りダイヤには、そういったコミュニティが誕生している。
さて、どうする。
コンクリートで出来た、傾斜の大きな階段に革靴の音を響かせながら直弥は考える。このまま普通に突っ込めば、警戒されることは明白だ。否、警戒されないなどという都合の良い出来事があるはずが無い。三階建てのビルの屋上に、相手はいる。この七階建てのビルから、北西に三百メートル進んだところに。道路を歩いて向かったとして、誰とも出会わない確立は低い。
待てよ。直弥は、閃いたように足を止めた。そして、自然と疑問が口から飛び出した。その疑問を忘れないうちに、ズボンの尻ポケットに入れていたアイフォンで、この地区のことを調べていく。来たときから可笑しいと感じていた事が、解れと成って直弥の脳内に落ちたのだ。
調べた後、直弥はポケットにアイフォンを戻し、まだ四階分残っている階段を駆け下りていく。エレベータは、動いていない。電気が通っていないのだ。何どか足を踏み外しそうになりながらも、直弥は階段を下りていく。革靴の音が反響しても、どれだけ強い音が出ようとも気にせずに駆け下りる。
外には、直ぐ出る事が出来た。そうして、右と左を数回ほど交互に見る。路上駐車は、一台も無い。建っている民家にも、自動車は一台も無い。今建っているビルは、家屋しかないこの地区では不釣合いだった。日差しが当たらない家屋もあるが、その家には明かりが灯っていない。
直弥はビルの直ぐ隣に位置する民家の敷地内に入っていく。普通、アンダーワールド以外の民家は警報装置が付いているが、それが全く反応しない。入って二メートルのところまでは、原則知らない人間の情報が入ってきた場合に反応する警報装置があるのだ。
「……ひょっとすると、ひょっとするな」
普段の変てこな話し口調も取れたまま、直弥は考えを脳内で整理する。そのまま、ゆっくりと北西に向かっていった。
