複雑・ファジー小説

Re: The world of cards 01/07一時保留 ( No.109 )
日時: 2013/01/08 20:57
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: zWHuaqmK)

 ヨルガはその場にしゃがみ、じっと残った血痕を見たりひび割れたアスファルトを眺めたりする。首が止まる事はほぼなく、忙しなく視線を様々な場所へと運んでいた。ちょこちょこと視線の端に映るダルマの一部に気を取られることなく、何かを探すように視線を動かしていたが、足元の血痕に視線を合わせたままヨルガの首は、動かなくなった。
 じっと血痕を見つめるヨルガを、ラムネードは真後ろから見つめている。何をするわけでもなく、ただじっとヨルガの背中だけを見つめていた。

「……ラムネード、集中できないんだけど」

 大きな溜息を吐きヨルガは立ち上がる。お尻の辺りを手で払い、ある場所へ歩を進め始めた。ラムネードもその後に続き、とてとてと小走りで付いていく。ヨルガが当てにしながら歩く視線の先には、月を運んだときに滴り落ちていた乾いて間もない血の跡。
 その跡は、ふらりと蛇行しながらもある住宅の車庫へと向かっていた。ヨルガの瞳が映している車庫では、今まさに月の応急処置が行われているところだ。

「あそこに、何かあるのぉ?」

 間の抜けた声が、ヨルガの耳に入る。

「あの血が続いているから、少し気になってるだけだよ」

 いつものように優しげな口調で答え、車庫の前に立つ。しっかりとしまっていないのか、アスファルトとシャッターが触れる面はうっすら隙間が出来ていた。其処から影で人が立っている事は分かるだろうと、ヨルガは考え、何もしないままそこの立つ。
 二分も経たない内に飽きてきたラムネードは、この車庫を保有している家の方へふらふらと歩いていく。人の居ない場所と知っているのか、不法侵入など気にしない風にずかずかと敷地に踏み込む。ラムネードを惹き付けていたものは、首を動かしてラムネードを見たヨルガには分からなかった。
 そしてまた、ヨルガは首を戻しじっとシャッターを見つめる。時折マフラーを弄りながら、数分ほど立ち続けるとシャッターが開く音が響いた。正確にはシャッターでなく、車庫の側面についている扉から黒い髪の女が出てくる。小さく女が頷いたのを見て、ヨルガはその元へと歩を進め近づく。それを見て、ラムネードもヨルガの元へと駆け寄った。

「あの血、少し提供してもらっても良いですか」

 歩きながら問うたヨルガに、女は思わず「え?」と声を漏らす。返事を待つ真顔のヨルガをよそに、女はその問いの意味を理解したのか驚きの表情を隠せないで居た。

「取り敢えず、中入れてもらっても良いですか。日差しが強くて、肌がひりひりするんですよ」

 今度は乾いた笑顔を連れて、ヨルガは言う。後ろに見えるダルマ姿の少女に怪訝そうな視線を映しながらも、女は「どうぞ」と返事をし車庫の中へと二人を招きいれた。一気に明度が下がった車庫内では、不思議な空間に入った重症の男と、女が一人、男が二人居るだけの空間。
 内心ほくそえみながら、心底驚き心配している表情を作るヨルガを後ろから見ていたラムネードは、面白い物を見るかのようにニッコリと笑い見つめていた。