複雑・ファジー小説
- Re: The world of cards 01/14一時保留中 ( No.112 )
- 日時: 2013/01/16 20:55
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: WqtRIGcg)
入ってきた二人を中に居た月以外が怪訝そうに見たが、ヨルガは何も気にしない様子で月に近づいていく。二人の後から入った香住は、どこか浮かない表情であった。
「あなたたち……誰です」
厳しい目つきで朔夜がヨルガを見る。ヨルガは闇に映える白い顔にある目を大きく開き、その朔夜の表情に驚いた様子を見せた。けれど実際ヨルガが見ていたのは、不可思議な空間に入った重傷の男の姿だけ。その不可思議な空間を作り出しているものを確認し、マフラーで隠れた口元を少し上げた。
学ランの後ろをラムネードがつまんだ事で、ヨルガは現実に戻りラムネードを振り返りぎみに見つめる。「なにあれ?」と言いたげに月を見た後に、ヨルガと視線を合わせたラムネードにヨルガは眼を細める。口元は笑っていた。マフラーで本当に笑っているかは分からなかったが、ラムネードもにっこりと微笑み返し、背中から指を離す。
「僕はヨルガ、ヴィンセント・ヨルガって言うんだ。少し頼みごとがあって、彼女に入れてもらったんだよ」
そういって、ヨルガは後ろに居た香住のほうを見る。人当たりのよさそうな柔らかい口調が車庫の中を響いた。朔夜が香住を見ると、香住は申し訳なさそうに俯き、蚊の鳴くような声で「ごめん」と呟き蒸し風呂に近い熱さの車庫から、出て行く。
カラカラと音を立てて閉まった扉のすりガラスから人影が見えなくなると、ヨルガは真剣な顔つきで朔夜を見つめる。一瞬でまとう空気を変えたヨルガに、朔夜達は軽く身構えヨルガの一挙一動を注意深く観察する。
- Re: The world of cards 01/16更新 ( No.113 )
- 日時: 2013/01/25 23:06
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: akJ4B8EN)
「僕が承諾していただきたいと思っているのはただ一つで……そちらの不思議な何かに入っている方の血液サンプルを、提供して頂きたいなと」
突拍子も無く「血をくれ」と言ったヨルガに、朔夜は怪訝そうな表情を向ける。それでもじっと朔夜の瞳を見つめ続けるヨルガに、朔夜は盛大にため息を吐き口を開いた。
「———」
◇ ◇ ◇
「仕事さぼっちったぜ、おい」
けらけらと笑いながら国会議事堂を進む青年達に、議員達の冷ややかな視線が突き刺さる。それを気にしない様子で、青年達——青年二人に、女性が一人の集団——は衆議院の方向へと進んでいく。彼等の着ているスーツの襟元には、国家秘密警察に与えられる小さな拳銃型のピンバッジだった。
「そんなこと言われてもぉ、あたしぃ、別に遅れることとかしてないしぃ? あんた達のせいじゃないのよぉ」
語尾を所々伸ばす独特な口調が、青年二人の耳に入る。先ほどけらけらと笑っていた青年は、またそれを聞き同じように笑い出す。もう一人の青年は、何も聞いていないといいたげな表情で静かに目を閉じながら歩いていた。
途中の通路を左へ曲がり、そこから五歩進んだ地点で彼らは足を止める。女がきょろきょろとあたりを何かを探すように首を動かす。ある一点で女が首を動かさなくなると、けらけらしていた青年がその一点を思い切り睨みつける。瞬間的にその一点が凹み、三人の姿は直ぐに消えた。
周りを歩いていた議員達は、まるで最初から彼らが居なかったかのように、表情一つ崩さずに通路を歩いていく。
彼らがみつめていた一点には、もう、何も存在していなかった。