複雑・ファジー小説
- Re: 残光の聖戦士 ( No.10 )
- 日時: 2012/07/19 10:14
- 名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)
4.怪魔(グロ注意)
ゼノビアの視界に、きらめく刃物がうつった、次の瞬間。
「ガアアアアアアアアアッ!!」
苦しげな叫び声とともに、大量の鮮血が飛んだ。
怪魔が後退しようとして、崩れた建物にぶつかり、もんどりうって倒れる。吹きだす鮮血が、怪魔の倒れた地面を紅に染めていく。
茫然としてそれを見ていたゼノビアははっとして、自分をかばうように立つ少年を見た。
思わず目を奪われるような純白の髪が、風に吹かれて揺れている。ところどころ怪魔の血のせいで赤く染まっているが、それでも美しく見えるのは不思議だった。
まさか、この人は。
「……大丈夫か?けがは?」
振り返って言う少年。透き通るような青い目と、端正な顔立ち。ゼノビアは思わず、息をのんだ。
「ミハイル様……?」
「おいおい、やめてくれよ……よかった。けがはないみたいだな。」
ふっと笑ってそう言うと、彼……クレアシオンの神、ミハイルは怪魔に向き直った。
「あそこに倒れているのは、君の従姉のエリザだろう?ゼノビア・シェンデルフェール。彼女を連れて、逃げるんだ。後は俺に任せて。」
神が自分をたすけてくれたのだ——ゼノビアはようやく気づいた。
「はい!!あの……助けていただき、ありがとうございます!!」
ゼノビアはエリザに駆け寄った。エリザは頭を押さえながらうずくまっている。
「エリザ姉さん!!……大丈夫?無事だった?」
「ゼノビア……!!無事だったのね!!」
エリザは泣き笑いしながら、ゼノビアに抱きついた。ゼノビアもエリザを抱きしめ、早く逃げようと、立ち上がる。
「ギャアアアアアアアアアアア!!」
「!?」
けっして見るものか、見るものか……!!思いつつ、やはりゼノビアは、見てしまった。
倒壊した建物にうずもれていた怪魔が、苦しげに叫びながら立ち上がる。胸のあたりが十文字に切り裂かれており、そこから血がぼたぼたと垂れ、大きな血だまりを作っていた。赤く充血した眼が、かっと見開かれる。ミハイルが大剣を構えた。
「……ゼノビア、早く!!」
「あ……うん!!」
あわてて震える足を動かしゼノビアは駆けだした。どうしよう。どうしよう。10年前の出来事が風馬灯のように脳内を駆け巡る。どうしよう、震えが、止まらない……!!
「……ゼノビア!!」
はっとした。今の声、エリザ姉さんじゃない……。
「ゼノビアっ!!」
エリザ姉さん?どうしたの……?
刹那、むっと、吐き気のする風が吹きつけてきた。腐敗臭。もわっとした……風ではない、息だ!!
ぞっとした。振り向くものか、と思いながら、振り返ってしまう。
すぐ目の前に、怪魔の顔があった。
「きゃああああああああああ!!」
ゼノビアの口から悲鳴があがる。なんで?どうして私を追ってくるの!?
ミハイルがゼノビアと怪魔の間に飛びだした。ちらりと後ろを見やって、早口で告げる。
「血まみれになるけど、覚悟しとけよ。」
次の瞬間、ミハイルは剣を構えて飛び出した。その切っ先が、まっすぐ狙う先は——怪魔の充血した眼球。
「……!!」
「はあっ!!」
剣は、吸い込まれるように眼球に突き刺さった。瞬間、ゼノビアは目を閉じた。
怪魔が吹きあげるように悲鳴をあげた。何か、生ぬるいものがかかる感触があり、ゼノビアは吐きそうになりながら目をぐっとつむる。
怪魔はしばらく長く高く、悲鳴を響かせていたが……やがて、地響きとともに、倒れた。
「……大丈夫か?」
肩に何かが触れる感触があり、ゼノビアは目を開けた。血まみれのミハイルが、そこにいた。
「こんな恰好ですまん。返り血はしょうがないから。」
「……あの怪魔。」
「ん?」
血まみれのミハイルに恐ろしさを感じながらも、それ以上の恐怖がゼノビアを支配していた。なぜ?なぜ?
「あの怪魔……私を狙っていました?」
「ああ。」
やけにあっさりと、ミハイルは答える。
「そういうのはよくあることなんでしょうか?」
「ない。」
あっさり。
「じゃあ、なんで……。」
「わからん。」
あっさりと答えるミハイルに、ゼノビアははてなと首を傾げた。ミハイル様って、こんなキャラだったっけ……。
……そんなのんきなことを考えていられたのも、数秒だった。
「ゼノビア!!」
エリザの叫び声。ミハイルとゼノビアが、はっと振り向いた、その瞬間。
——黒ローブの男が、長剣でゼノビアに斬りかかった。
