複雑・ファジー小説
- Re: 残光の聖戦士 ( No.16 )
- 日時: 2012/08/04 13:47
- 名前: 久蘭 (ID: 2PmCSfE.)
7.神の館
「っ……。」
馬車から降り立ち、ゼノビアは緊張で息を飲んだ。
白いワンピースのひだの横で、ゼノビアの拳が小刻みに揺れている。使者としてやってきた御者が続いて御者台から降りた。
「今、下仕えを呼びます。ここから先は下仕えに案内してもらってください。」
「あ、はい……。」
ゼノビアの声はかすれていた。無理もない。これから国王と同じくらいの地位を持つ「神」と対談するのだから。
御者が白い門扉についたベルを鳴らす。リリリ……と澄んだ音が、ゼノビアの強ばった体を少しほぐした。
しばらくして、門扉の向こうの館から、メイドらしき女性が出てきた。御者とゼノビアに向かい、小走りでやってくる。
「では、私はこれで。」
御者はメイドの姿をみとめると、馬車の方へと戻っていった。突然一人ぼっかちになり、ゼノビアは心細さに震える。
「ゼノビア・シェンデルフェール様ですか?」
「は、はい……。」
応答の声にも震えが混じった。ゼノビアは大きく深呼吸する。今からこんなんでどうするのよ、ゼノビア。
「お待ちしておりました。では、ミハイル様のお部屋にお連れします。こちらへ。」
メイドはゼノビアに、中に入るよう促した。門扉の向こうには小さな庭があり、その先に神の館がある。
さあ、神に会いに行こう。
覚悟を決め、ゼノビアは門扉をくぐった。
真っ白な神の館に入ると、ゼノビアとメイドは灰色のカーペットの上を進んでいった。
クレアシオンの神の館は、別名「氷雪の館」と呼ばれる。調度品、壁や扉、使用人の制服までもが全て白、灰、銀、あるいは透明で統一されているからだ。それはまさに雪を、氷を思わせる。どこか儚さを覚える色合いは、見る者の気持ちを寒くする。
白い壁には、やはり灰色のタペストリー。ゼノビアの前を進むメイドの制服も灰色と白。寒々しいその光景に、ゼノビアは息をのんだ。
「こちらです。」
メイドの声ではっと我にかえった。目の前には、他の部屋よりも大きな灰色の扉。ノブは銀色で、儚げな周りの景色の中で唯一輝いている。
「ミハイル様、お連れしました。」
メイドが扉をノックし、部屋の中にいるであろうミハイルに告げた。一瞬の静寂の後——入室の許可を告げる、ミハイルの声が響いた。
メイドが扉を開いた。瞬間、広がったのは、美しい白い大部屋。
「よく来たね、ゼノビア。」
窓辺の白い椅子に腰掛け、ミハイルは微笑んだ。
