複雑・ファジー小説

Re: 残光の聖戦士 ( No.17 )
日時: 2012/08/08 12:50
名前: 久蘭 (ID: MHTXF2/b)

8.対談

「ミハイル様、お呼びと伺い、参上致しました。」
床に膝をつき、頭を下げる。そのゼノビアの姿を見て、ミハイルは慌てて手を振った。
「そんなことよしてくれ。いいから、座って。」
ゼノビアは立ち上がり、再び頭を下げた。そして、ミハイルの向かい側の椅子へと向かう。その身体がわずかに震えているのを見て、ミハイルはふっと笑った。
「では、私はこれで。」
ゼノビアをつれてきたメイドが下がるのを見届けるや、ミハイルはほっと息をついた。
緊張に身をこわばらせながら歩いてくるゼノビアに、ミハイルは声をかける。
「そんなに構えるな。神だからって、俺は威張った覚えはないけど。」
「え……?あ、はい……。」
椅子に腰掛けながら、ゼノビアははてなと首をかしげた。なんとなく、口調が変わっているような……(汗)
「ま、紅茶でも飲めよ。そしたら落ち着くんじゃないか。」
「あ、はい……。」
差し出された紅茶のカップを手に取り、口に含んだ。甘い香りと味が広がる。暖かいものが胸に落ち、かすかに残っていた震えが止まった。
「あの……。」
さっきよりはしっかりとした声が出た。ゼノビアは大きく息をつき、続ける。
「今日はどういったご用件で」
「堅苦しい言い方は好みじゃないな。普通にしゃべれよ。敬語とかなしで。」
「え!?」
思わぬ言葉に、心底驚く。ゼノビアの、神というのは寛大で偉大で、敬語絶対というイメージが一気に崩れ落ちた。つまりキャラ崩壊。
「あ、えっと……どうして私をよんだんで……あ、よんだ、の?」
思わず敬語が混ざりそうになり、ゼノビアは慌てて訂正した。それでも違和感はぬぐえない。だって神に対してタメ語って……(汗)
ミハイルは満足げにうなずいている。そして、口を開いた。
「その方がいい。……さて、本題だが。」
ミハイルは紅茶を口に含んだ。透き通るような青い瞳で、ゼノビアを見つめる。ゼノビアの緑の瞳が、心情を写してか揺れている。
「例の怪魔事件について、聞きたいことがあってね。」
ミハイルはカップテーブルに置き、手をくんで顎をのせた。ゼノビアはしっかり背筋を伸ばし、次の言葉を待っている。
「怪魔だって、他の生物と何らかわりない。大好物を見つければ、本能的に咀嚼しようとする。」
ミハイルはかすかな笑みを浮かべた。見ていると寒気がはしるような、冷たい氷のような笑みだった。
「だが今回の怪魔は違った。今回の怪魔は、ゼノビア。お前だけを狙っていた。そんなことは基本ありえない。生物の本能に反するからね……本能に逆らって動くものは、人間くらいだ。」
ゼノビアは何か、違和感を感じていた。ミハイルの話し方に——そう、「人間」という部分を、やけに強調している。自分は人間でないとでも言いたいかのように。
「だとすると考えられるのは、怪魔が何者かに操られていた、ということだ。お前を殺したがっていた、何者かが。」
「それは、あの黒ローブの人ですか?」
「ほぼ確実にそうだろう。ただ、奴は全く口を割らない。この3日間尋問にかけているにも関わらず、だ。並大抵の精神力じゃないな。」
ふっと笑って、ミハイルは紅茶を飲む。頭のなかに、あの光景がよぎった。そう、これからゼノビアに話すことにも大いに関係ある、あの光景。
「さて、やっと本題だ。なぜあの男がお前を殺したがったのか?ある程度、察しはついてるんだよ。」
ミハイルは挑むようにゼノビアを見る。ゼノビアは冷や汗が顔をつたうのを感じた。身体が小刻みに震える。まさか。あの事を知るのは私と……ああ、見知らぬあの男の子だけのはず。私と、朱色の髪に不思議な目の色をした、あの男の子だけのはず……。
まさか、ミハイルがそんなことを知るよしもない。私に言おうとしてるのは、そのことなわけがない。何を怯えてるの、ゼノビア。
それでも震えは止まらなかった。怯えた瞳が、ミハイルを見つめる。ミハイルはふっと息をつき、鋭い目つきでゼノビアを見返した。
「10年前、このクレアシオン全体を巻き込む大火事があった。放火だったらしいが、犯人は未だに不明。俺が神として覚醒する、2年前のこと。」
ゼノビアの顔に、驚愕がよぎった。
強ばったゼノビアの顔を見ながら、ミハイルは、言い放った。

「放火したのは……ゼノビア、お前だ。」

記憶が、渦を巻いて、よみがえる。
ゼノビアの頭に、猛り狂う炎がちらついた。