複雑・ファジー小説
- Re: 残光の聖戦士【オリキャラ緊急募集中!!】 ( No.28 )
- 日時: 2012/08/29 21:17
- 名前: 久蘭 (ID: wECdwwEx)
11 混乱
「なんで……。」
どうして、ミハイルがその事を知っているのだろう。私と……あの少年しか知らないはずの事なのに。私の、忌まわしき過去……。
ミハイルはそんなゼノビアの狼狽した様子を見ながら、紅茶を一口含んだ。微かな苦味を、なぜか強く感じた。
「この事はおそらく、お前と俺しか知らないだろう。クレアシオンの住人は全員、あの大火事は正体不明の奴の放火だと思っている。」
ゼノビアが父を焼死させた直後、その火は町中に広がった。王都に次ぐ大都市は火事で焼け落ち、オステン王国民を騒然とさせた。
「なぜ……知っているの……。」
震える声で、ゼノビアは問いかける。紅茶で暖まったはずの体には悪寒がはしり、冷や汗が流れ、目は焦点が合っていなかった。心を落ち着かせようと、紅茶のカップに手をのばす。指先が触れる。つかむ。震える。ゼノビアの心境をうつすかのように、紅茶の水面が揺れている。
ガシャーン!!
突如、静かな部屋に鋭い音が響いた。しばし呆然とするゼノビア。その足に、次の瞬間痛みがはしった。
「っっ!!」
カップの破片が靴下を突き破っている。刺さった箇所からは血が滲み、白い靴下に赤い斑点をつけていた。更には温かい紅茶がかかり、薄い茶色に染まっている。
鋭い痛みと、軽い火傷。これだけでもこんなに痛いのに、炎に焼かれた父はどれくらいの苦痛を味わったのだろう?
「大丈夫か!?」
慌てて近寄るミハイルも視界に入らなかった。久しぶりに思い出す、忌まわしき過去。紅茶と血で濡れた靴下は、透明な液体でさらに濡れる。
「すまなかった。嫌なことを思い出せたな。」
「なぜ、知っているんですか。なぜ、私を拘束しないんですか。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ……。」
あの時のように、高ぶる感情。わけがわからない。ここに来た目的は、なぜ怪魔が襲ってきたのか、それを知るためではなかったか。
「落ち着け、ゼノビア!!」
ミハイルの声も耳に入らない。普通に喋る約束?そんなことどうでもいい。どうなってるの。一体、どうなってるの。
「ミハイル様!!」
「ノラ!!この子を小部屋に……」
メイドが部屋にやって来て、私の肩を持つ。いつの間にか床に座り込んでいたらしい。頭の混乱は酷くなる。わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。わからないよ……!!
「ああああっ……!!」
「ゼノビア!!」
「ゼノビア様!!」
父の断末魔の顔と声。猛り狂う炎がちらつく。頭を埋め尽くしていく、炎……。
記憶は、思考は、闇に墜ちる。
目の前は赤から、黒へ。
