複雑・ファジー小説
- Re: 残光の聖戦士【オリキャラ2人募集中!!】 ( No.34 )
- 日時: 2012/09/09 21:21
- 名前: 久蘭 (ID: MGziJzKY)
12 避難
普段は客人を泊まらせるための部屋にゼノビアを運び込み、ベッドに寝かせて2時間。ゼノビアはまだ目を覚まさなかった。
よほどショックが大きかったのだろうな……と、ミハイルはため息をつく。ミハイルは決してゼノビアを責めたり、拘束したりするつもりではなかった。あの黒ローブの男——フランク・アルノーというらしい——彼が襲ってきたのはゼノビアのその不思議な能力のせいだと言うだけのはずだった。
(……迂闊だった。)
彼女がショックを受けることは予測していたが、ここまでとは……。
(これが……アシルさんの娘か。)
不思議なほど似ていなかった。親子なのだから、もっと似てもいいと思う。母親似だとしても、どこにもアシルの面影がないことに、ミハイルは違和感を感じずにはいられなかった。
—私……私……ああああっ……!—
父を自らの手で殺めてしまったことに気づくや、気を失って崩れ落ちた6歳のゼノビア。8歳のミハイルは、ショックの中で頭を回転させる。
(助けなきゃ。)
アシルさんが、こんなに大切にしていた娘を……俺が助けなきゃ。
それからのことは、ミハイルもよく覚えていない。ゼノビアを背負い、炎の中を逃げ惑ったのは覚えている。ようやく町民達が避難している場所にたどり着き、ゼノビアを寝かせて……。
「ゼノビア!!」
その時、突然一人の少女が駆け寄ってきた。薄暗い避難所の中、ぱっと目立つ濃い金髪。優しげな茶色い目。自分と同い年くらいだろうか。一瞬にして、噂のシェンデルフェール家の娘だとわかった。
「君が、助けてくれたの?」
泣き笑いしながら、少女はミハイルに尋ねる。ミハイルはこくりとうなずいた。
「ありがとう……!!私、この子の従姉なの。」
言うや、少女は泣き出した。もう大丈夫だ。彼女に任せておけば、ゼノビアは安全だ。
「それじゃあ、後はよろしくね。」
「あ、待って!!本当にありがとう!!」
ミハイルは振り返らなかった。ゼノビアの安全を確保した今、ミハイルに訪れるのは……恐ろしいほどの無力感だった。
からっぽ。なにも感じない。無感情とはこの事を言うのだと、後にミハイルは何度も思った。無力感に苛まれながら、避難所を出る。
燃える町並み。つい数時間前まで、アシルさんに頭を撫でられていた町……。
涙は、出なかった。
怒りも、憎しみも、悲しみも、何もない。
からっぽの心に支配されたミハイルは、燃え盛る炎ですら、恐ろしいとは思わなかった。
「ん……。」
ゼノビアの呻き声にはっとする。瞬間、ベッドの上で目をこするゼノビアが、顔をおおって崩れ落ちた6歳のゼノビアに重なった。
「ミハイル……様。」
「気がついたか。」
全ては、時が癒してくれるだろう。
人の力では、彼女は癒されることはない。
だから、余計な慰めは言わない。
ここから、新しい道へ踏み出すんだ、ゼノビア。
ミハイルはそっと目を閉じ……あの記憶を頭から消し去った。
