複雑・ファジー小説

Re: 残光の聖戦士 ( No.6 )
日時: 2012/07/16 09:52
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

2.神

ジェローム・ディドロは、急ぎ足で「彼」の部屋に向かっていた。ここはクレアシオンの中心。中央広場の前に建つ、神のいまわす館だ。
また、怪魔が出現した。こうなればあの方にしか、どうすることもできない。
扉の前に着くと、ジェロームは軽くノックして、扉を開けた。
「……入室の許可もとらないなんて、よほど緊急のことなんだな。」
入るなり、彼はそう言ってふりむいた。誰もがはっと目を奪われる、輝かしい純白の髪が揺れる。
「もうお気づきになっているかと存じますが。」
「わかっているよ。怪魔が入って来たんだろう。今日はどこから侵入したんだ?」
落ち着いて問いかけてくる彼を見て、ジェロームはいつ感じる違和感を覚えた。いくら怪魔を倒すことができるといえ、毎回のこの落ち着きは何なのだろう?
「今さっき、情報が入ってきました。怪魔は西の門を破壊し、家や屋台を壊しながら中央広場のほうへ向かっています。残念ながら、3人ほどが亡くなったと情報が入ってきております。」
「そうか、かわいそうに。……じゃあ、西へ向かおう。一刻も早く片づけなくては。」
壁にかかったマントを素早く羽織りながら、彼はジェロームを見やる。
「西広場は避難場所から外してあるね?」
「はい。それから先ほど東広場に治安部隊の隊員数名を向かわせました。彼らには南広場または北広場に避難するよう指示しました。」
「よろしい。さすがジェロームだ。」
彼はふっと笑って、大剣を手にとった。これこそ彼の愛剣、ハーフ・アンド・ア・ハーフ・ソード。
「それじゃ、行ってくる。中央広場の避難民にも指示を出して。南北へ逃げるようにと。」
「了解。」
彼は正面の窓に歩み寄り、カーテンを引き開けた。目の前の中央広場に避難した人々は、彼の姿を認めるや、深々とお辞儀をする。
彼はテラスに出ると、柵を乗り越え、飛び降りた。その姿が庭へ降りたち、開け放たれた屋敷の門をくぐる。
やがて彼は、西の路地へと消えた。
彼こそがこのクレアシオンの町の神、ミハイル・アヴァランシュであった。