複雑・ファジー小説

Re: 残光の聖戦士 ( No.9 )
日時: 2012/07/17 13:44
名前: 久蘭 (ID: uWXzIoXb)

3.逃走(グロ注意)

「エリザ姉さん……本当にこっちで合ってるの?」
「合ってる合ってる!!私をなめないの!!」
ゼノビアとエリザは、薄暗い細い路地を駆けていた。中央広場につくような気配はせず、ただただ古臭いバーや怪しげな店が並んでいる。そこの店主や店員たちもほとんどが避難しており、陰気さがさらに増していた。
「大丈夫、心配しないで!!……ほら、もうすぐよ!!」
エリザが指さす先には、一筋の光。その向こうに中央広場の噴水がかすかに見え——ゼノビアはほっと胸をなでおろした。
「さ、行こう!!怪魔が来ちゃうよ!!」
「わかった!!」
エリザの手を握り直し、ゼノビアは乱れてくる呼吸を必死に整えた。さあ、もうすぐ、この逃走が終わる……。

「「……えっ!?」」
中央広場に着き、2人はあんぐりと口を開けた。
中央広場の人々が、南北へと動いていた。せっかく逃げてきたであろうに、なぜわざわざ遠くの避難場所へ?
「西門から怪魔が侵入しました!!東、西、中央の広場は危険です!!南北へ移動してください!!」
治安隊の隊員が数名、声を張り上げて叫んでいた。人々は恐怖にひきつった、あるいは必死の表情で、南北へと向かっている。ゼノビアとエリザは、顔を見合わせた。
「どうする、エリザ姉さん……。」
「うちは中央がダメなら、北って決めてるの。行こう、ゼノビア。」
クレアシオンの住民は、住んでいる地域によって避難場所が変わる。ゼノビア、エリザは本来なら中央広場が避難場所なのだが、今回のような場合は北広場に避難することになっていたのだ。
「よし、行こう。北広場までの近道は……。」
エリザが言いかけた、その刹那。

ガラガラガラッ!!
ガッシャーンッ!!

何かが破壊される音。
何かがこっぱみじんに割れる音。
そして、次の瞬間。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
人の悲鳴とも聞きまがう、恐ろしい咆哮。
避難す人々の足が、はたと、止まった。
「……いやあああああああああああああ!!」
若い女性の悲鳴。それに続くように、人々がどっと、動き出した。
「怪魔だあああああ!!」
「助けて!!助けてえええ!!」
人々の悲鳴が、広場に満ちる。混乱した人々が、我先にと南北へ走り出した。
「っ!!ゼノビア!!」
「あ、うんっ!!」
こうしてはいられない。ゼノビア達も走り出そうとする。
その時、すぐ近くの建物が崩れた。ゼノビアもエリザもはっとして、それを見やる。
そして——絶句した。

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
がっと裂けた口から、発せられる咆哮。鋭利な歯には血がこびりつき、ところどころに咀嚼したのであろう人の肉片が垂れ下がっている。瞳は真っ赤に充血し、毛の一本もない身体には、血飛沫が飛び散っていた。
まるで巨大クモのような姿。しかし首は異様に長く……。その怪魔は、唾液と肉片、血液をぼたぼたと垂らしながら、じっとゼノビアを見つめた。いや、睨みつけたというほうがいいだろうか。
ゼノビアの顔が恐怖に歪み、声にならない悲鳴を上げる。手足はわなわなとふるえ、動くことすらままならない。
「ゼノビア!!」
エリザがゼノビアの手をひこうとする。途端、怪魔が長い首をがっと突き出し、エリザを首で跳ね飛ばした。悲鳴を上げ、エリザは倒れる。
怪魔はゼノビアに向かってその口を大きく開けた。濃厚な腐敗臭に襲われ、ゼノビアは吐きそうになる。
そしてその鋭利な牙が、ゼノビアの身体を噛み裂こうとした、その瞬間だった……。

太陽の光が、精巧な刃物に反射して、輝く。
その光はゼノビアにとって、たしかにかすかな希望の光であった。