複雑・ファジー小説
- Re: 世界と一緒だから。 ( No.37 )
- 日時: 2012/08/19 10:46
- 名前: 山田威刻 ◆YyoUezf27o (ID: 49KdC02.)
- 参照: 代理投稿です。
【四話め。 愛情と狂気は紙一重 5】
いつもなら出さない、自分でも驚くほどの冷たい声。自分が怒っているのが、いやでもわかる。どうでもいい奴に時間をとられただけではく、そんな羽虫同然の奴が世界を侮辱したんだ。身の程知らずに甘い態度をとってやるほど、僕は優しい人間じゃない。
「ねぇ、まだ何か用?」
信じられないというような表情で僕を見つめている女子に、笑顔で問いかける。僕の笑顔を見て、女子は弾かれたように走り去って行った。そんなに怖い顔をしたつもりはなかったのに、なんて思ってもない冗談を心の中で呟いた。……あ、でもこれって思ってるのか。
どうでもいいことを考えていると、世界が小さく身じろぎした。ぼんやりと開かれた鳶色の瞳は、僕をじっと見つめている。「世界」と小さく声をかけると、まだ寝惚けているのかだらしなく、へにゃりと笑った。
「うにゃ……、りん、どー?」
寝起きのどこか掠れた声で、世界が僕を呼ぶ。それがひどく幸せそうで、思わず立ち上がって、世界を強く抱きしめた。あぁ、もう。なんて可愛い人なんだろう、貴女は。愛しい愛しい世界は、抱きしめられたことで目が覚めたらしく、腕の中でなにかごちゃごちゃ言いながら暴れていたけれど、それでも抱きしめ続けると、諦めたらしく大人しくなった。
とくん、とくん。腕に、世界の鼓動が伝わってくる。暴れていたわりには落ち着いた鼓動に、僕といて安心してくれているのかなぁ、と自惚れてみる。あながち、自惚れでもないのだろうけど。
「あぁ、もう。大好き、世界。さらさらの髪の毛も、まあるい瞳も、小さな鼻も、柔らかい唇も、細くて折れちゃいそうな首と腕も、桜色の爪も、なめらかで長い足も、少し子供っぽい舌たらずな声と喋り方も、優しい性格も。何もかもが、愛しくて大切で。食べちゃいたいくらい大好き。愛してるよ。」
ぎゅう、と抱きしめたまま囁くように告げると、少しだけ世界の鼓動が速くなったのがわかった。恥ずかしいのか、胸元に顔を埋めてくる。くすぐったいのと、それ以上に世界が愛しくて、胸の辺りがきゅうと苦しくなった。
世界の鼓動が伝わるように、僕の鼓動も彼女に伝わっているだろうか。