複雑・ファジー小説

Re: 世界と一緒だから ( No.4 )
日時: 2012/07/16 12:55
名前: 白沢祐 ◆xoPT2KzXZY (ID: khvYzXY.)

【零話め。 昔の話を少しだけ 4】


「竜胆?」

 僕の呟きが聞こえたらしく、世界がこちらを向いて首を傾げた。小さな顔にのっかったセルフレームの眼鏡が可愛らしい。僕のものと色違いだけど、たぶん誰も気が付いていないはずだ。……星野と時野は除いて。

「ん? 少しだけ、思い出してた」
「なにを?」
「……むかーしの、思い出かな」

 なにそれ、と小さく笑うと世界は再び前を向いた。さらさらと揺れる髪。触れたかったのだけど、邪魔はできないからやめておいた。またあとで触れられるし。ああ、でもまだ15分もあるのか。
 小さく、ため息を吐く。世界は思い出さない。過去の思い出は、彼女の中にはない。あるのは、僕が植え付けた都合の良い過去。記憶喪失ってやつ。羨ましくて、反吐が出そうだ。自然と口角が上がる。

 でもさ、そのおかげで世界は僕だけのものなんだよ。ほんと、感謝してるよ。世界を、汚してくれてさ。

 誰に言うわけでもなく、心のなかで呟いてから、クスリと笑みをこぼすと、また机につっぷした。