複雑・ファジー小説
- Re: 生死彷徨う精神性 ( No.2 )
- 日時: 2012/08/12 15:39
- 名前: magenta⇔path ◆7UgIeewWy6 (ID: My8p4XqK)
—————半年前—————
「あ、雛ちゃん? 今ね壮真先輩にクッキー作ったから、これから壮真先輩の家行くんだ。渡すだけだけどね。」
「おー、そっかそっか。良かったね。で、あたしのクッキーは?」
「勿論あるよ。壮真先輩に渡した後に雛ちゃん家寄るから、待っててね」
「あ、冗談のつもりだったけど……まぁいいや。気を付けるんだよ」
「うん。じゃあね」
私は電話を切る。雛ちゃんにとって私が発した「じゃあね」の一言が私の正常時の最後の言葉となるなんて、誰も予想など出来なかった。事故に起こしてしまった人も事故に遭った私も誰も皆。
壮真先輩と雛ちゃんのクッキーを鞄に詰めて家を出る。雛ちゃん家は私の家の右隣ですごく近い為、いつも重要なこと以外は後回し。とりあえず遠い人から進めている。
そして壮真先輩の家は徒歩で15分。文化部の私にとっては15分歩いただけでもかなりの重労働。だけど、壮真先輩の笑顔を想像するだけでそんなことなど忘れてしまっていた。
そう、壮真先輩の家まであと5分と言うところだったのに……。
ふと横を見たと同時に大型トラックの壮大なブレーキ音とクラクションの音が耳にべったりとこびりついた。
私が気づいた時に視界に入ったのは赤い液体がべったりとついた腕。騒ぐ人の声、病院に連絡する人の声、私を轢いた人の声、みんなの声。その中で意識は段々と遠のいていった。
目の前が暗闇から解放されたのは随分経った頃じゃないかと思う。
目を開けると眩しい照明に家族、雛ちゃん、医者、看護師。人がいてすごく安心した。
体中に擦り傷があるものの幸いにも大きな怪我と言えば、ぱっくりと切れてしまった腕くらいだった。
手術も終わったようで翌日から学校には行けるらしい。
だけど胸の内にぽっかりと穴が開いてどこか寂しいのは、目の前の人の中に壮真先輩がいないからなのだろうか。
壮真先輩は私には興味が無いのだろうか。私の心配などしてくれないのだろうか。
私は行き成り大声を上げる。奇声を上げる。
もう……自分が分からない……。
それから私は、私ではなくなった。
<序章 完>