複雑・ファジー小説
- Re: 生死彷徨う精神性【コメント大歓迎】 ( No.5 )
- 日時: 2012/07/17 19:58
- 名前: magenta⇔path ◆7UgIeewWy6 (ID: xZ7jEDGP)
「……え?」
「だから……、何でもない」
「う……うん」
こんな近くで声聞いたの初めてかも。というか何気に心配してくれてたんだ。結構嬉しい……。
あれ……この人の名前って何だっけ。
私はバレないように、身を乗り出して秀才君の机の上に書いてある名前を見た。
えっと、梁居……和泉?
「何?」
「え、あ、え、いや、何でもない…!!」
「あっそう」
少しだけ悪いことをしたような気持ちがした。
いや、確かにクラスメイトの名前……というか隣の人の名前覚えてないのはどうかと思うけど……やっぱ覚えてない方が悪いのかなぁ……。自業自得か。
それから隣の席に少し壁を感じながら授業受けて、休み時間過ごして、時は流れた。
昼休み。雛ちゃんとお弁当食べようと教室を出ると壮真先輩がいた。昨日のことでお互いに少しぎこちない。
壮真先輩は私以上にもじもじしながら……でも目の奥は笑っているようにも感じた。
「えっと、昨日はごめん。千帆だと思わなかったんだ……倒れている人。しかも……」
「壮真先輩、それ以上言わなくていいですよ。そんなこと承知の上です。それに昨日のことだって……」
昨日のことだって……、何だろう。この次の言葉が思い浮かばない。
如何ってことないって壮真先輩に言って安心させてあげたいのに……。
「千帆、弁当行こ」
「え……うん」
横から割って出てきたのは雛ちゃんだった。私の腕を強く握って、壮真先輩を睨む。
このまま話の決着着けたかったけど、今の状況だったら割り込んでくれた方が良かったのかもしれない。
私は暫く壮真先輩を見つめて、視線を逸らした。
雛ちゃんはひどく怒っているのか分からないけど、未だに私の腕を強く掴んだまま、足早に屋上へと向かう。
[バンッ!!]
屋上の扉が強く音を鳴らす。
「千帆、大丈夫?」
「う、うん」
「良かったぁ。壮真先輩に捕まってて、しかも千帆が困ってる様子だったからちょっとムカついて出てきちゃった……ごめん」
「いや、雛ちゃんが助けてくれたから安心した。あのままじゃ私、負けてた。自分に」
「……そか。今度はちゃんというんだよ。もう先輩となんて別れちゃう勢いでさ」
「うん、そうだね。……あ、お弁当食べよ?」
「よし、食べるか」
朝の雰囲気とは大違いである。まぁこの雰囲気が明日まで持ち越しされなかったからよかった。
やっぱり雛ちゃんと食べるお弁当は美味しい。
「千帆。なんか困ったこととかある?」
「え?んー、特に…は……。いや、あった。雛ちゃんって私たちの学年の名前って全部覚えてる?」
「うん、勿論。今、全学年覚えようと思ってる。で?」
「あのさ、私の右隣の席の学年トップの人って梁居……和泉……とかいう人だよね?」
「そうだけど……隣の席の人くらい覚えようよ」
「あ、やっぱりそうなる?」
「うん、そうなる」
「そっか……じゃなくて、ありがとう」
「いや、これくらいで礼言われるとかあたし何様?」
雛ちゃんは大きな声で笑い始めた。私もつられて笑ってしまう。
私たちが座っている反対側に例の秀才君がいるとも知らず。
そして壮真先輩が扉の隙間から見ていたということも知らず。
笑い転げて、はしゃいで、お弁当食べ終わっても喋り続けて、楽しい一時を過ごした。