複雑・ファジー小説
- Re: 生死彷徨う精神性【コメント大歓迎】 ( No.9 )
- 日時: 2012/08/08 15:29
- 名前: magenta⇔path ◆7UgIeewWy6 (ID: EByIShHF)
昼休みも終了の時刻。チャイムが大きな音を立てる。
「千帆、そろそろ行こうか」
「うん、そうだね」
そう二人で言葉を交わせば、校内への扉に向かう。
その時、扉の奥で人影が揺れたように見えたのと、背後で気配がしたのは単なる気の所為だろう。
私はふとその場で立ち止まり、辺りを見回す。そこには人影はなく、青々と広がった真昼の空が存在感を大きくしていた。
「千帆? どうかした?」
既に階段を下りかけている雛ちゃんに声をかけられて振り向けば、私は若干駆け足気味で階段を下りる。
午後の授業も始まり、何事もなく時は過ぎて無事に下校時刻になった感じがしたが、そうではなかったことなど私が一番分かってる。
壮真先輩のことは少し気になったし、壮真先輩とすれ違うことも多かった。
その度に顔を下に向け若干反対に逸らしたり、友達の陰に隠れてその場を凌いだつもりだった。
だから壮真先輩がどう反応してるとか、こっちに気づいてるのかなんてわからなかった。
けどそれ以前にそんなことなどせず、もう一回話し合えばよかったのかもしれない。
そんな勇気がなかった、今日はもう話したくなかった、何て言ったらお終いだけど。
雛ちゃんはクラスの役員で集まっているらしく、久々に一人で帰ることになった。雛ちゃんのいない帰り道。
ただそれだけだと言うのに、目が潤みそうなのは何故だろう。
その時気が付いた。今更に感じた。今までどうして気が付かなかったのだろう。
私は雛ちゃんがいなきゃ何もできないなんて……。
凄く幼いときは近所の私をいじめる男子たち、中学生になると私に恨みを持つ女子たちも増えた。
そんな人たちを追っ払って私を安心させてくれたのは雛ちゃん。
誰にも言えない悩み事は全て雛ちゃんにまかせっきり。
いつでも心配してくれる雛ちゃんが時折悲しく見えてきてしまう時もあった。
どうして心配してくれるんだろう……って。
それって雛ちゃんが心配してくれてるんじゃなくて、私が心配させて無理矢理心配してくれてるだけなんじゃないか。
私を心配し過ぎて、あんなに元気な雛ちゃんが一度だけ大きな病気を抱えた。
私が原因で病気になったというのに、「大丈夫?」しか言えなかった。いや、言わなかった。
無責任にもほどがある。全ての要因は私なんじゃないか。
そう思うと、私の潤んだ瞳から大粒の雫が零れ落ちた。
必死でこらえてきた雫が頬を伝い地面に落ちる。
太陽がギラギラと私を睨みつけ、蜃気楼で前がもやもやしてる中、私は車や人通りの少ない道のど真ん中で声を押し殺して泣いた。
ひたすら泣いた。私の真下の地面や服は汗と涙でじんわりと濡れていた。
珍しく早く帰れる予定だったのだが、結局帰ったのは日が暮れる少し前。
山々がじわじわと朱色に縁どられている時刻だった。
目は赤く腫れ、頬には涙の痕がうっすらと残っていた。
そんな私を見てお母さんは何かを察してくれたのか、
「おかえり」
とだけ言って何も話しかけず放っておいてくれた。
あぁ、また人に迷惑をかけた。心配をさせてしまった。
私は役立たずで人任せで……全て人に頼ろうとしてしまう。
そんな私が嫌いだ。
私は生まれて初めて、人生で初めて、自分を拒否した。
<事故後1日目 完>