複雑・ファジー小説

若宮由那 ( No.14 )
日時: 2012/07/27 03:12
名前: 一ノ瀬瑞紀 (ID: fmI8cRcV)

 美香の家までの十分間、私は思い出していた。
 先輩とのたった二ヶ月のことを……

 五月某日。
 道場の前の短い階段に腰掛けて、私は頭を抱えて泣いていた。
 低い身長をカバーするために、毎朝三十分かけて高く大きく盛っている頭の上のお団子が、くちゃり、と悲しくつぶれているのも、そのときの私にはどうでもいいこと。それくらい、泣きたかった。
 なぜ、そのときその場所で泣いてしまったのかは謎。きっと、お墓につれていくくらいの謎。部活が終わってヘトヘトでなにも考えずに歩いていたら、いつの間にか道場前の階段に座って泣いていた。
 私はこの時のことを、神様が松本先輩と引き合わせるために私を道場の前で泣かせていたのだと思う。いや、そう思おうと思う。

 とにかく悲しかった。言葉に表せないくらい、悲しかった。

 どれくらいかよくわからなかったけれど、泣き始めてから結構長い時間がたって、道場から人がでてきた。そう、その人こそ、松本先輩だったのだ。
 私は扉の方へと視線を移す。そのとき私は松本先輩を生まれて初めて見た。
 かっこいいとかそんなのは一切なかった。
 











 だって、先輩もなぜか泣いていたから。