PR
複雑・ファジー小説
- 葉月みやび ( No.5 )
- 日時: 2012/07/25 08:44
- 名前: 一ノ瀬瑞紀 (ID: fmI8cRcV)
あの、松本君が死んだ。
どうやら自殺だそうで、自宅マンションから転落というごく一般的な自殺方法。
サスペンス小説とかならもっと謎を残してくれるものだが、松本君はなんの謎も残さずにふつうに死んだ。私はこれが許せない。
私はミステリーやら、サスペンスやらそういったたぐいの小説を幾度となく読んでいる。そして、私は幾度となく小説の主人公、つまり謎を解く人物になりきっていた。いつしか本当にそうなりたいとさえ思っていたのだ。そして、やっと近くの人、といってもただのクラスメイトだが、人が死んだのだ。
でも、謎を解くのに肝心な謎がない。だって、松本君はふつうに自殺で死んでしまったから。
サスペンスやミステリー的におもしろい死に方してよ、と、今更死んでしまった松本君に言っても無意味。そもそも生きている人に言っても無理だ。
ムシャクシャして私はひとり部屋で頭をかきむしる。その時、一つのことが私の頭をよぎった。
何で松本君自殺したんだろ?
そう考えるとなにも答えが見つからない。部活でも勉強面でも大活躍だった。彼女だっていたはずだ。
「ちゃんと謎……残してるじゃん」
私は部屋で一人狂ったように笑う。笑いすぎて、息が苦しくなって、す、と部屋の空気を吸い込む。なんて私は冴えているんだ……そう、まるで探偵のよう。
今年の夏休みは、どうやら退屈しなさそう。私はそう思いながらもう一度笑う。
PR