複雑・ファジー小説
- Re: 【オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族【何か新キャラ出てきた】 ( No.130 )
- 日時: 2012/08/24 23:44
- 名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)
九六暴走開始から二十分後の鎌奈家。
「...どうやら。」
菜夢は携帯を耳から離して、ポケットにしまう。
「結構大変みたいね...。」
「繋がったの?」
菜夢は首を横に振る。
「でも、この調子じゃ帰ってくるとしても...十時間以内かも...。」
「そんなに多く見積もるの!?」
「でも、結構マジな話ですよ。」
「えっ...。一体どんな生活をしてるの佳夢君?」
「さぁ...。」
菜夢は諦め顔で言った。
愛子はふと時計を見て思い出す。
「あ。やばい。今日塾だった...。」
「そうなんですか...?じゃあ、家まで送って行きますか?」
「いいよ、そんなことしなくても。」
「送ります。」
菜夢は言い切ると、廊下を歩いていた帆花に声を掛けた。
「帆花さん。」
「な、なに?菜夢ちゃん?」
帆花はおどおどとした態度で聞く。
「ちょっと愛子さんを家まで送って欲しいんですが...。」
「い、いいって菜夢ちゃん...。」
愛子は当たり前の様に遠慮した。
しかし、そこで首を振ったのは帆花であった。
「大丈夫、愛子ちゃん...。こんな私でもできることなら、
何でもするから...。」
帆花はそう言って笑うが、無理して笑ってるようにも見えた。
「じゃ、じゃあ、車のキー取ってくるから、待っててね。」
門の前で待っていると、赤い車がどこからともなくやってきた。
窓から帆花の顔が見えたので、後部座席に乗る。
「お、お願いします。帆花さん。」
愛子が声を掛けるも、帆花は答えない。
緊張しているのか肩が震えている。
「帆花さん...?」
「...え、あ、ごめんね、愛子ちゃん。じゃあ、出発するわね。
家は...?どの辺?」
「えっと...。」
愛子は最寄りの駅を言って、そこで降ろしてほしいと頼んだ。
少し遠めであるが、そこが愛子の家には近かった。
帆花は弱弱しく頷き、車を発進させた。
それから数分、車内での会話は全くなく、
ラジオから聞いたことのない名前の国で謎の爆破があったとかなんとか、
そんな感じのニュースが流れていた。
大通りに入ったところで、ちょっとした渋滞に巻き込まれた。
そこで、帆花が初めて、口を開いた。
「愛子ちゃん...。」
「はっ、はい。」
思わず噛みそうになるが、何とか返事をする。
「何でしょう?」
「楽し...かった...?」
「え?」
「いや、あの、佳夢君から聞いた話だと、ほら、
ちょっと、事情があるらしいし...。あ、ごめんなさい!
触れちゃいけなかったよね...。ごめんなさい...。」
「あ、いや、いいんです。」
「そ、そう...?」
帆花は安堵したように溜息をつく。
「でも、あの、無理はしないでね。無理して、佳夢君が望む結果にしなくて、いいからね。
愛子ちゃんは愛子ちゃんの結論を出せばいいんだよ...。」
「そんな...、今日は楽しかったですよ。」
「そう、かな。」
帆花はどこか自信なさげな口調で言う。
「...あのね、私こう見えても、保育士やっててね。
どうでもいいかもしれないけど...。」
何と言うか、意外に思った。
子供たちへの対応におどおどしていそうだな、と少し失礼なことを考えてしまった。
「子供たちとは、上手く接することが出来るの。
あの、なんていうか、言い方は悪いかもしれないけど...、
子供たちは、単純だから。」
「単純...。」
「あ、やっぱ言い方悪いよね。ほら、えーっと、純粋だから。純粋に笑ってくれるから。
だから、私、自慢じゃないけど、嘘の笑顔がちょっと分かるの。」
帆花はそこで一呼吸おいてから話を続ける。
「...愛子ちゃんの今の笑顔は、ちょっと作り笑顔になってる。」
「え...?」
思いもしてなかったことを言われ、少し驚く。
「あぁっ!ごめんなさい!気を悪くしたら、本当にごめんなさい!」
「いえ...、そんなことは...。」
今まで愛子は、それこそ自殺願望者であったものの、
それ以外では周りに愛される底抜けに明るいキャラであった。
それ故に、自分に嘘がつけない子、とまで勝手に言われたこともある。
でも、作り笑顔をしているなんて言われたのは、
初めてであった。
もしかしたら、今までの自分も作り笑顔がすべてで、
誰も言ってくれなかっただけなのかもしれない。
「...えっとね、だからと言って、愛子ちゃんの結論を出してほしいとはいえ、
まだ急いでほしくは、ないの...。」
「...。」
「もうちょっと、後二、三日でいいから、遊びに来てね。
きっと、笑えるよ。きっと、愛してもらえるよ。
私も、なんだかんだで、あの家で愛されてきたから...。」
帆花はちょっと照れくさそうに笑った。
その笑顔は、今までの表情とは違い、
さっきより可愛さが増した。
でも、愛子はこの時ばかりは、上手く笑えなかった。
やがてラジオから、次のニュースが飛び込んでくる。
『えー、たったいま東京都内で火事がありました。
火事があったのは——。』
ニュースを呼び上げるキャスターは淡々とした口調で、
その場所を読み上げる。
そこは——。
「私の、家。」
窓の外を見ると、煙が上がっていた。