複雑・ファジー小説
- Re: 【オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族【もはや迷走中】 ( No.139 )
- 日時: 2012/09/06 22:33
- 名前: 純金リップ (ID: Q.36Ndzw)
燃える自分の家を眺めていた愛子は、
途端に足を動かし始めた。
「...愛子ちゃん?」
帆花の呼びかけにも答えず、自分の家の方へ向かっていく。
野次馬などを押しのけ、その最前列に立つ。
唯一残っている家の門にも火の手が廻りそうであった。
しかし、愛子はその門を押し、家へ入ろうとした。
「愛子ちゃん!」
後ろの方で、またも帆花が呼びかけている。
しかし、もう愛子には聞こえていなかった。
「お母さん——。お父さん——。」
愛子は歩みを止めない。
例え野次馬たちが何かを叫んでいても、
例え消防車のサイレンが聞こえても。
「いやだ...。」
玄関の目の前までたどり着いて、愛子は膝から崩れ落ちた。
「いやだ...。まだ、死なないで...。」
自然と目から涙が零れ落ちる。
「まだ...。」
一気に熱気が伝わってくる。
気付けば、炎に囲まれていた。
しかし、動く気すらせず、もう死のう、とも考えた。
だが、その目を覚ます声が聞こえてきた。
消防隊員が救助しに来たのかと思ったが、振り向くと違った。
「押崖!!」
服のあちらこちらが燃えているが、佳夢はそれでも愛子に手を伸ばした。
愛子は瞬時にその伸ばされた手を伸ばし、強く握る。
「佳夢君。」
「何やってんだ!?」
佳夢は愛子の手を強く引っ張りその体を起こす。
そして、愛子を抱えるようにして炎の上を飛び越える。
「!?」
何が起こったのか一瞬わからなかった。
というか、予想だにしていなかった。
誰が、女子一人を抱えて炎を飛び越える少年を想像したであろうか。
と愛子は思ったが、鎌奈家は全員「ありうる」と答えるだろう。
佳夢と愛子が家の敷地外に出ると、消防隊員が出迎える。
一応は、助かったらしい。
「ふぅ...。」
佳夢は力が抜けたようにその場に座り込む。
因みに、燃えていた服はいつの間にか脱いでいた。
「もうやだこのパターン...。二度と炎には飛び込まねぇ。」
などとぼやいていると、消防隊員が「君凄いじゃないか。」と
肩を叩いてくる。
「ありがとうございます。」
と、適当に返して、愛子の方を見る。
愛子も少しの火傷で、大した怪我はしていないらしい。
安心していると、遠くから聞いたことあるような声がした。
「佳夢君!愛子ちゃん!」
帆花であった。
「大丈夫!?」
「帆花さん...。なんでここに?」
「ごめんね...。私の所為だよ...。」
佳夢の問いを無視して帆花は涙目で謝る。
「でも無事でよかった...。愛子ちゃんも、佳夢君も。」
帆花の泣き顔は自然に笑顔へと変わった。
その後、恵人や雛菊なども駆けつけた。
愛子は一旦警察署へ連れて行かれるようであった。
その後紅介に聞いた話によると、放火の可能性が高いと警察は言ってるらしい。
というか、その通りである。全くもって。
しかし、佳夢はそのことは言わなかった。
何故かは——、自分でもわからずにいた。
午後六時。
紅介と共に帰ってきた愛子は、やはり落ち込んでいるようであった。
鎌奈家は変人の集まりとは言え、一応空気を読める家である。
暫くそっとしてあげなければならない。
それ位は、できるであろう。
と、佳夢は思っていたが。
「あ、愛子さん!おかえり!今ジェンガや——むぐっ。」
「馬鹿か!?お前!」
咄嗟に真夢の口をふさぐ佳夢。
しかし、愛子は別段気を悪くした様子はなく、むしろ少し笑っている。
「佳夢君。」
「ん?なんだ?」
「泊まれる部屋とか、ある?」
「え?まぁ、あるっちゃ、あるけど。」
「そう?よかった。」
愛子は安心したように息をつく。
意味が分からないような顔を佳夢がしていると、紅介が後ろから付け加えるよう言った。
「実は、押崖ちゃんの親戚の人が今九州にいてな。
本当はその人たちのところに預けるべきだが、明日でないと無理なんだ。
だから、今日はこの家に泊めてもらうよう言ってな。」
「そうなんですか?」
「愛子さん泊まるんだー!」
真夢は嬉しそうに笑う。
愛子も、つられて笑っていた。