複雑・ファジー小説

Re: 【オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族【是非見てね!】 ( No.157 )
日時: 2012/09/21 22:33
名前: 純金リップ (ID: Q.36Ndzw)
参照: キバって更新。第二章。

四月五日。
午後三時ちょうど。
鎌奈佳夢は信じられない光景を目にした。
それは、氏神の残したメモの真相を確かめるために
駅前のカフェへ行ったときであった。
手にしていたコーヒーのカップが思わず手から零れ落ちた。
店員があわてて床にぶちまけられたコーヒーを拭きに来る。
ただ、そんなことに構わず、佳夢は一点を見つめていた。
店内で恐らく氏神を探しているのであろう、
鎌奈刻夢を。

ほんの数秒の間、刻夢は店内を見回すと、
すぐに店から出て行ってしまった。
佳夢はあわてて席を立とうとし、
コーヒーの代金を支払うのを忘れていたのに気付く。
財布を取り出して五百円玉をテーブルに置いて駆けだす。
店員が「お釣り」などが含まれた言葉を掛けてくるが、
しかし、気にしない。
刻夢の姿を追いかけて、店を出た。

店を出た瞬間に、刻夢の姿は人ごみの中に消されていた。
それでも、刻夢が消えたと思われる方向に駆け出す。
ただ、最早見つかる訳もなく、佳夢は肩を落とす。
少し立ち止まって、何とか落ち着いてきて、呼吸を整える。
「...帰ろう。」
これ以上は無駄だと判断し、佳夢は来た道を引き返す。
駅の近くの駐輪所に停めてあった自転車にまたがり、
家路へと漕ぎ出す。

家に帰ると、玄関にいたのは裏夢であった。
「あ、おかえり。」
「ただいま。」
靴を脱ぎ、家へ入る。
「何してたの?」
裏夢が尋ねてくる。
一瞬答えようか迷い、うつむき加減に唸る。
「え?そんなに答えづらい?」
「まぁ...。」
とはいえ、あまり隠す理由も見つからないので、
リビングで間食を食べながら話をすることにした。

「それって、ホントに刻兄だったの?」
裏夢は怪訝そうな表情で尋ねる。
佳夢は一瞬「うん」と言おうとしたが、
そう言われてみると、自信もなくなってくる。
確かに、見たのは遠目からで、
話しかけもしなかったが、体格、髪型、顔つきまでも、
佳夢の記憶の中にいる刻夢と一致するのだ。
「まぁ、多分。」
「ふうん。」
裏夢は自分の実兄の話であるにもかかわらず、
興味なさげであった。
「そもそも俺、刻兄と一緒にいた記憶とかあんまないんだよね。」

それもそうであった。
刻夢は佳夢より三つ上で、実際、生きているとなれば二十一歳なのだ。
さらには、刻夢は学生にしては忙しく、さらには勤勉で、
父の仕事をたまに手伝っていた。
菜夢の勉強好きは、その辺に似たのではないかとも思わせる。
よって、あまり裏夢達とは遊ぶ機会は少なかった。
兄弟の中で刻夢をよく知っているのは、佳夢が一番であろう。
真夢も刻夢とはよく遊んでいたが、
記憶力の悪い妹の事なので、頼りにはできない。

「でも、良かったね。」
裏夢は唐突にほほ笑んだ。
「会えるといいね、佳兄。俺も会ってみたいよ。」
「そうだな...。もし生きてたら、兄弟全員で祝いでもしよう。」
佳夢の言葉を聞き、裏夢はうなずいてから、立ち上がった。
「さて、勉強でもするかな。もう受験生だし...。」
「そうか。お前もそんな歳か。」
「オッサンみたいなこと言うなよ。」
呆れたように裏夢は笑う。
オッサンとは心外だ、と思いつつも、
佳夢は笑って「すまんな」と言った。

ビルの最上階の窓から夜景を眺めながら、
刻夢はお茶を口にした。
久々のお茶の味に「うまい」と、感嘆の声を漏らす。
同時に、ベッドに座り込み、ふかふかとした感触に包まれる。
そして、近くの棚に置いてある一冊のファイルを手に取り開く。
その中に挟まっているのは、在りし日の鎌奈家の家族写真。
そこに自分は写っておらず、ただ、成長した弟、妹達の様子が窺える。
「佳夢。真夢。裏夢。菜夢。」
一人ずつ名前を読んでみて、写真を元に戻す。
「お兄ちゃんに任せておけ。今すぐ、助けてやるからな。」
刻夢はファイルを閉じて、ゴミ箱へと放り投げた。