複雑・ファジー小説
- Re: 【早速オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族 ( No.66 )
- 日時: 2012/08/10 21:38
- 名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)
- 参照: ※今回も長いよ!注意なんだね!
陣呉は三回ほど手を叩いた。
「いいですね。そういうの。家族の絆、みたいな。
でも、そういうのやってると物語が進みませんよ?」
「なら、早く説明しろ。なんで彩奇さんを殺したか。」
「ああ。そうだった。その話題で盛り上がってたんだった。」
陣呉のふざけた態度に、佳夢は殺意を覚える。
否。もう殺意なら十二分に覚えた。
「だから、彩奇さんを殺したのは、
佳夢さんに対していい挑発になるかなって、思ったからですよ。」
しばらく沈黙が続く。
そして、それを破るようにして陣呉がため息をつく。
「説明終了。」
「...え?」
「なんだよ咲さん。聞こえなかったの?」
「いや、聞こえたけど。でも、それって。」
「狂ってる、って言いたいんですか?」
陣呉の問いは咲の心の中を丸写ししたも同然であった。
「たかが下剋上のために、他人を殺したことを、
責めたいんですよね?そりゃ俺だって、分かってもらえるとは思いません。」
それは、陣呉の本心であった。
常に他人の常識を脱線している陣呉にはそれは、
分かり切ったことであった。
「だけど、それがなんだって言うんだ。」
「...さて。種明かしはこれ位でいいですかね。
早く戦いましょうよ、佳夢さん。彩奇さんの復讐のためにも。」
陣呉は着物の隙からナイフを取り出した。
恐らく、彩奇を殺したのと同じものだった。
佳夢は俯いていた。
そして、考える。
「——嫌だ。」
やがて、はっきりとした声で返答する。
「お前とは、戦わない。」
「...え?」
陣呉は目を丸くした。
「お前と戦ったら、彩奇さんが死んだ意味がない。
彩奇さんは俺を戦わせないために、お前に殺されに行った。
ハッキリ言って、俺はお前を殺せる。それ位の自信はある。」
佳夢はポケットからぐしゃぐしゃになったを取り出した。
それを見て、こみ上げてくる涙を、こらえる。
その時の佳夢は、ちゃんと咲の、皆の知る佳夢の顔だった。
「でも、彩奇さんはそれを望んでいない。
俺がお前を殺すことを望んでいない。」
五年前。
その年は、佳夢が殺人を始めて、殺人を辞めた年だった。
彼の殺した二十三人。彼らにしてしまったことを、佳夢は後悔していた。
だから、消えようと思った。
死んでしまおうと思った。
でも、彩奇が、声を掛けたのだ。
「佳夢クーン。なにしてんの?」
部屋でナイフで手首を切ろうとしたとき、彩奇は空気も読まず入ってきたのだった。
「あらら?お楽しみ中?なぁんだ、悪かったね。じゃ、出てこ。」
そう言って彼女は踵を返し、帰ろうとした。
「——彩奇さん。」
「ん?何かな?」
彩奇は呼び止められ、佳夢の方に振り返る。
「俺は、なんて取り返しのつかないことをしてしまったんだろう...。」
一瞬キョトンとした顔をして、彩奇は再び笑顔になる。
「なにドラマみたいな台詞吐いちゃってんの?馬鹿でしょ。」
飛び出す言葉こそ辛辣であったが、そこに優しさが含まれている事が
佳夢には分かっていた。
泣きそうになって、床に崩れ落ちる。
そして、実際に佳夢は泣いた。
嗚咽が止まらず、涙が遠慮なく零れ落ちた。
そんな佳夢に視線を合わせるようにしゃがんで、彩奇は彼の頬をなでた。
「あのね佳夢クン。あなたの殺した人は戻ってこないけど、
あなたはそれがやってはいけないことだと気付いたことで、
本来のあなたは戻ってきた。何度も人を殺して、
それに気づける人はなかなかいないわ。」
「でも、それでも...。」
「僕は佳夢クンを庇う気なんてない。寧ろ、責めてやりたいね。
殺された人の苦しみを味わってほしい。でも。」
彩奇は一瞬言葉をきる。
「そんな風に命を大切にしない奴、どっかの誰かと一緒じゃない。
ま、昨日までの佳夢クンの事だけど。」
彩奇は手を頬から佳夢の手のひらへと移動させた。
「僕はそんな風になりたくない。佳夢クンもでしょ?」
佳夢は何も言わず頷く。
それを見て彩奇は安堵したような笑みを浮かべる。
「それが分かったら、死のうだなんて考えなさんな。命は大切に。」
そして最後に彩奇は手を佳夢の頭に移動させて、
そっとな撫でる。
佳夢は目を真っ赤に腫れ上がらせて、顔を上げた。
「ありがとう。彩奇さん。」
「ん。どういたしまして。そうだ。指切りしよっか。」
そう言って彩奇は小指を前に出す。
佳夢も少しためらって、小指をだし、彩奇の小指に絡ませる。
「では、公約其の一。佳夢君は自ら命を絶ってはいけない。
公約其の二。人を殺してはいけない。
公約其の参。うーん、えーっと...。」
「過去の自分を忘れてはならない。ってどうでしょうか。」
「いいんじゃない?ちょっと中二病っぽいけど。」
そして、約束をした。
生まれ変わるために。