複雑・ファジー小説
- Re: 【早速オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族 ( No.67 )
- 日時: 2012/08/11 21:59
- 名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)
「だから。」
「殺さない。って訳ですか。」
佳夢の言葉を遮って、陣呉は心底つまらなさそうにため息をつく。
「くだらない...。ま、どんな理由であろうと、
あなたが信念を曲げないのは分かってますけど。」
「頑固者で悪かったな。」
「そうは言ってませんよ。でも...。これでいよいよ、
俺のやったこと全てが、意味を失くした...。」
陣呉は悲しさが少し含まれた目をした。
「無意味な殺人、か。」
「なぁ、陣呉。やり直そうぜ。もう一度。」
「はい?」
いかにも驚いたような顔をする陣呉。
「俺も、殺人鬼だったけど、こうやって更生出来た。
二十三人も殺してしまった。お前と同じく、無意味な殺人をした。
でも、無意味だと気付いたから、やりなおせた。
お前も無意味だって気づいたなら、やり直せるさ...。」
そう。無意味な殺人。
今回佳夢と陣呉で重ね合わせられた点は、そこであった。
佳夢のやったことも、無意味で、
陣呉のやったことも、無意味だ。
だが、それに気付いて、人が死ぬことの意味を知る。
矛盾するかもしれないが、そういう意味では無意味ではないのかもしれない。
だから、自身と同じことを思った陣呉ならば、
やり直せると、佳夢は感じた。
いくら人殺しでも、虐殺師でも——。
しかし、陣呉は笑っていた。
「佳夢さん。なんか勘違いしてるんじゃないんですか?
確かに無意味な殺人だけど、俺は後悔してませんよ?
罪悪感も、虚無感も、そんなものはない。」
「——え?」
「甘いんですよ。いくら自分が同じことを昔思ったことがあるからって、
そいつが同じルートを進むとは限らない。
だから俺は、あなたと違い、このまま人殺しのまま生きていく。」
「おい...、陣呉...?」
「何言ってるの陣呉君!」
今まで口を閉じていた咲が、痺れを切らして叫んだ。
「なんで!?わかんないよ!どうして、そんなことが言えるの?
どうして、そんな異常な考え方ができるの?」
「分からいならそれで結構。むしろ大歓迎。
そんなに激昂しちゃって、可愛いなぁ、咲さん。」
口調こそふざけていたものの、それが今まで言った言葉が、
今まで狂気だと思っていた言葉が、陣呉の本音であることに
遅いながらも、咲は気付いた。
「そんな目で見ないでくださいよ、咲さん...。
さて、もう生きてる理由もないし、そろそろ、かな。」
突然何を言ったかと思うと、陣呉は足元にあった箱の中から
何かを取り出した。
佳夢と咲はそれを見た瞬間、悪い予感がした。
それはガソリンの入った箱だった。
そして、陣呉はその蓋をあけ地面に向ける。
鼻歌を歌いながら。
床にガソリンがこぼれる音。
やがて、それは空になった。
そして、箱の中からもう一箱取り出す。
「咲!今度はマジで逃げろ!」
ふと我に返った佳夢が咲に呼びかける。
「えっ、でも...。」
「いいから!」
そう言ってる間にも、またガソリンが床に撒かれる。
「やべえって!逃げろ!」
「あ、う、うん!分かった!」
強く頷いて咲は出口に向かって走り出す。
佳夢はその背中に向かって叫んだ。
「あ、あとバケツに水入れて持って来て!」
「わ、分かった!」
咲の返事を聞いたところで、陣呉を見る。
すでに、ガソリンは三箱めに突入していた。