複雑・ファジー小説

Re: 【早速オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族 ( No.70 )
日時: 2012/08/11 23:35
名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)
参照: 参照300突破!あれ、そんなすごくない...?

ガソリンを撒き終ると、陣呉は「ふう」と、一息ついた。
「これ位でいいかな...。
あれ、佳夢さん。まだいたんですか?」
「ああ。まだいたよ。」
「なんでですか?死にたいんですか?」
「そんな訳ねえだろ。」
佳夢は拳を強く握りしめる。
「全く、懲りないですね。」
「すまんな。」

陣呉は着物の裾からライターを取り出した。
「お前、本当にやるのか?」
「当たり前田のクラッカーですよ。そんなの。」
思ったよりうまく火はつかないらしく、カチカチとうるさい。
やがて、火が点いた。
「お。出来た。」
「なあ。いい加減にしろよ。そんな簡単に死のうと——。」
「うっせえなぁ!」
陣呉は声を荒らげた。
「人の命がなんだとか言ってるけど、知ったこっちゃねえよ!
俺は俺の生き方をしてる!お前には関係ないだろ!」
その気迫に若干圧倒されながらも、佳夢は反論する。
「関係、あるさ。お前が死んだら、
お前が人殺しのまま人生を終えたら、皆悲しむ。」
何より一族の絆を大切にする一家だ。
その光景は、目に見えていた。
「知るか!」
ただ、陣呉には通用しなかった。

「いい加減にするのはお前だ。善人面しやがって。
いいか、お前は更生したから満足なんだろうがなぁ、
お前に殺された人はどうなる!それが果たして満足する死に方だったのか?」
「...。」
「人の一生は死に方で決まる。そう俺は思う。
俺は人殺しとして死ねて、それでもいい。それでいい。それが俺の人生だ。」
もはや、何を言っても無駄だった。
佳夢は、説得をあきらめ出口に向かって後ずさりした。
「そいうや、なんか勘違いしてるっぽいから言っておきますが——。」
陣呉は口調を普段と同じに戻した。
「俺は、虐殺師じゃないですよ。」
「——は?」

佳夢は思わず後ずさりしていた足を止める。
「い、今なんて」
「それじゃ、この辺でおさらばですね。」
「おい待て。いま」
「また逢う日まで。」
そう言って、陣呉はライターを手放した。

引火する瞬間。
佳夢は倉庫を飛び出た。
中で、炎が真っ赤に燃え盛っている。
唖然として立ち尽くしていると、後ろから誰かかが駆けてくる。
バケツを持った咲だった。
「持ってきた...、って、これじゃ...。」
咲も倉庫の方を見て、唖然とする。
確かに、消すことは無理だろう。
ただ、佳夢の考えているこのバケツ一杯に入った水の用途は
そうじゃなかった。

佳夢はそのバケツを持って、頭の上でひっくり返す。
「よ、佳夢君!?」
「持っといて。」
「あ、あの中に飛び込むの?」
「おう。説得は無理だったからな。
なに、すぐ戻って来てやるよ。」
そう言って佳夢は駆け出し、再び倉庫内部へ入った。

真っ赤に燃える炎の中心。
そこを目指し佳夢は走った。
少し近づくと、人影が見えた。
それを佳夢は陣呉だと認識し、走るペースを上げた。
そして、そこまで来たとき。
それが陣呉ではないと認識した。
確かに陣呉はいたのだ、が。
何故か、長身の女に抱きかかえられていた。

その女はこちらに気付くと、陣呉を抱えたまま丁寧にお辞儀をした。
思わず火の熱さに気を取られそうになるが、
なんとか精神を女の方に集中させる。
綺麗な黒髪の、いかにも日本人と言う顔だちをした女はこう名乗った。
「どうも。天都 赤穂と申します。二番目の〝女教皇〟です。」
そのいかにも不可解な名乗りに、佳夢はさらに混乱する。
この女が何をしようとしてるのか、何時の間にこの場所にいたのか。
その他いくつか。
多数の質問が頭をよぎる。
そうしているうち、女の後ろにこれまた長身の男が現れた。

「よう坊ちゃん。いきなりの登場ですまねえなぁ。
それと、いきなりの頼みごとで済まねえが、
この坊ちゃんもらってくぜ?」
その男が指差したのは明らかに陣呉であった。
本来なら譲ってはいけない場面なのに、佳夢は一旦躊躇した。
そして、男は佳夢に答えさせる間もなく「よし、決定」と、
女——いや、赤穂と顔を合わせて、うなずいた。
次の瞬間男は天井に向かってバズーカを放った。
天井に大きな穴が開き、星の綺麗な夜空が目に入った。

「お、おい!待て!」
佳夢は呼び止めるものの、丸っきり無視していた。
男の腕から、先端に鉤爪がついた細い糸が伸び、
それが天井の穴を抜け、倉庫の天井に引っ掛かった。
赤穂は片腕で男につかまり、片腕で陣呉を抱えた。
それと同時に、男達はゆっくりと上へ上昇していった。
「待てよ!陣呉に何をする気だ!」
「それは答らんねーな。坊ちゃん。代わりに、
いきなりの自己紹介ですまねえが聞いてくれ。」
上昇しながら、男はにやりと笑った。

「俺の名は天都 義彦!十二番目の〝吊るされた男〟だ!
覚えといて損はない名前だ!つーわけで、覚えとけよ!」
奇妙な高笑いと、灼熱の炎だけを残して赤穂と義彦は去って行った。
彼らが鎌奈家と古来から深い因縁を持つ天都家の一員だという事を、
佳夢はまだ知らなった。