複雑・ファジー小説

Re: 【オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族【何か新キャラ出てきた】 ( No.88 )
日時: 2012/08/14 12:46
名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)

四月一日。
広いだけの何もない学校の屋上。
その真ん中に、まるでそこの支配者の様に愛子は立っていた。
今日は風が強く、前が目にかかってうざったい。
春休みに入り、毎日この場所へ特に意味もなく訪れている。
何かが起こる訳もなく、また、何か起こせる勇気もなく。

少し迷って歩き始める。
今日こそはという思いが、愛子を突き動かす。
黙って、屋上のフェンスに手を掛ける。
誰もいないことを配慮し、大きくそれを跨ぎ、外側へ。
そこから見ると、ここの校庭はずいぶん広いものだった。
転校してきてすぐと言う訳でもないが、慣れたわけでもない。
また風が吹く。
今度の風は先ほどよりも強く、愛子は思わず落ちそうになるが、
フェンスを掴み、体を支える。
今日こそは。今日こそは。
息を吸って、もう一度下を見下ろす。
誰も見ていなかった。誰にも見られていなかった。
死ぬのには、絶好のシチュエーションであった。
もし誰か見ていたのなら、興ざめであった。

フェンスから手を放す。
それだけで、体は強風にさらされ、ゆっくりと、前のめりになる。
そして——。

その瞬間。
何者かが腕を掴んだ。
それによって、落ちるのを無理に停止された体は、
前のめりになったままだった。
「おい。」
後ろから声が聞こえる。
「なにやってんの?」

言うなれば、ベタな展開であった。
特に変わったところはなく、漫画でならよく見たことある。
屋上へ行ったら、自殺しようとする少女がいた。
それならば、助けるのが普通なんだろう。
そう思ったから、佳夢は自然に行動していた。
駆け出し、少女の腕を掴んでいた。
そして、少女が驚いた顔でこちらを振り返った時。
その少女が、押崖愛子だったと知る。
「押崖、だよな?」
未だ腕を掴んだまま、愛子に話しかける。
愛子は何も答えない。
とりあえず、どうすればよいのだろう。
こんな素敵な展開に遭遇したのはいいが、こっからの成り行きが分からない。
愛子をどうすればいいのか。
このまま話してしまえば、佳夢に有無を言わさず、落ちそうだ。

ならば、と。
佳夢は愛子を思い切り内側へ引っ張った。
それにより愛子は宙に浮き、こちら側へ落ちてくる。
「あ。」
多少強引なのは承知であったが、それで、
愛子が自分の真上に落ちてくるとは、思いもしなかった。
「ぐえっ!」
愛子を受け止めるようにして、佳夢は地面に倒れたため、
背中をぶつけた分と、上から愛子がのしかかった分のダメージを負った。
「いてぇ...。」
愛子が退くと、佳夢も素早く立ち上がった。
「大丈夫か?押崖。」
「...はい。」
「で、何してたんだ?って、聞くまでもないが。」
愛子は黙り込む。
自殺であるのは火を見るより明らかであったが、
理由について問い詰める気はない。
きっと聞いたところで、理解も出来ないのだろう。
焼身自殺しようとした奴の気も分からないので、所詮無駄である。