複雑・ファジー小説
- Re: 【オリキャラ募集中!】鎌奈家の一族【何か新キャラ出てきた】 ( No.98 )
- 日時: 2012/08/14 21:43
- 名前: 純金リップ (ID: EfKicuSN)
愛子ははっきり言って戸惑っている。
それは変なことではないのだが。
この自分の自殺を中断させた少年を、
命を救ってくれた恩人ととらえるべきか、
はたまた、まだ自分を死なせてくれない悪魔の遣いととらえるべきか。
ここで正直に前者を選べない自分は、ひねくれていると思った。
「うーん...。なんかさ、楽しい話しようぜ。」
「...え?」
佳夢の突然の一言に愛子は首をかしげる。
正直、苦し紛れであり、紛らせられなかったのは明らかだ。
「いや、えーっと、俺苦手だし。こういうの。
ここで会ったのもなんかの縁だろ。
俺、鎌奈佳夢な。よろしく。」
緊張はしていたが、円滑に喋れた。
「よ、よろしくお願いします。」
愛子も戸惑いながらも、応える。
しかし、不思議であった。
昨日出会い、言い方こそアレだが、目を付けた少女がいて、
そして今日。
適当に散歩をしていたら、出くわして、しかも、自殺しようとしていた——。
これじゃあ、まるで漫画のようだ。
ありえなさそうだけど、本当にあるんだな、と少し感心した。
まあでも、確かお隣の国で自殺しようとする少年を
女の人が公衆の真ん前でキスで止めた事例がある。
あってもおかしくはない、のかもしれない。
「わ、私は押崖愛子っていいます。」
「知ってる。」
「そう、ですか。」
何だろう。
佳夢の家にはこんなタイプの人間が少ないため、対応に困る。
いや、これは初対面だからかもしれない。
もしかしたら、打ち解ければばもっと砕けた性格なのかもしれない。
ただ、佳夢の考察などあんまり意味はない。
話してみればわかる事なのだろう。
なにか話題を振ろうとしたその時。
「私の話、聞いてくれますか。」
これまた、話がいい方向か悪い方向かもわからない、
微妙な方向へ進んだ。
「いいよ。聞き手に回るのは、得意だ。」
意味もなくかっこつけて黙る。
「私。人ってなんで生きてるか、分かんないんです。
死ぬための命なのか、生きるための命なのか。
誰に聞いてもはっきりした答えなんてないし。
それがないのは分かってるけど。でも、あんまスッキリしなくて。」
どうやら、なにか深い思考を持っているようだ。
その辺は佳夢にはやはり、よく分からなかった。
「それで、試そうとしていて。死のうとしたんです。」
「試す?」
愛子はコクリと頷いた。
「今私は生きていて、それはそれで幸せで、誰かの愛も感じてる。
でも、私が死んだ時、その愛はさらに大きくなるんじゃないかって。
だから要は、自分が生きてるのを喜んでもらうのと、
自分が死んでるのを悲しんでもらうの、どっちが幸せかって事なんです。
それで、理解できると思ったんです。
死ぬための私なのか。生きるための私なのか。」
話しが終って、愛子は黙り、佳夢も黙った。
やはり、正当な口出しは出来ない。
死にたがりの考えが、佳夢にはよく分からなかった。
「よくわかんねえな。」
「私も。です。」
愛子は自嘲するようにクスリと笑う。
始めて笑った彼女には、愛を感じることはできなかった。