複雑・ファジー小説
- Re: ステノグラフ ロケーション ( No.2 )
- 日時: 2012/08/03 23:24
- 名前: ヲーミル (ID: hXGqMVlp)
PART 1 「波長」
1
『ブォンブォンブォーン、チェケラッチョ!
ブォンブォンブォーン、アサダッゼ!
ブォンブォンブォーン、チェケラ——』
耳元で響いた振動と『奴ら』を、スグルは手探りで止めた。太陽が強く閉じたまぶたを照らし、視界全体が赤に染まる。
スグルは覚悟して目を薄く開いた。瞬間金色の光が目を突き刺す。
「うへ・・・」
太陽から目をそらすように寝返りを打つ。まだ回転しきっていない頭が重い。
カーテンが開いているのと、この時間まで静まり返っているのを考えると、同室の仲間はどこかへ行っているらしい。
スグルはむくりと起き上がると、二段ベッドの上からのそのそと這い降りた。
「んーーー眠い」
当たり前のような言葉を口にして大きく伸びをする。スグルは重い足取りで窓辺へと向かった。
目を細めて外の様子を見る。絶妙なポジションで立っている木々が、朝の陽ざしをうけてキラキラと光っていた。
「あ、起きてたのか」
不意にガチャリとドアが開き、背中に声がかかる。スグルは体を窓の方に向けたまま後ろを振り返った。
「うん。今、ちょうど」
「早く着替えた方がいいぜ。時間ない」
そういって部屋に入ってきたのはクラスメイトのスグルより少し背の高いトシ、コーヒー牛乳を片手にしている。
「テツは?」
「トイレ行ってる。すぐ来るだろ……っと」
トシがパックの横に付いているストロー入りの袋を剥ぎ取った時、ちょうどドアが開いた。
「やぁおはよう」
「おはー」
軽快な足取りで部屋に入ってきたのは小柄なテツ。こちらは両手に『やーいお茶』を持っていた。
「あいこれスグルの分」
「おーわりぃ」
テツが投げた片方のペットボトルを、スグルは顔の横でキャッチした。
これで、同室三人が揃った。
スグル達は、少し田舎に位置する私立光陰高校の1年B組。
今では珍しくなった全寮制で、三人まとめて男子寮の304号室に居座っている。
ペットボトルのキャップを開けながらスグルは聞いた。
「今何時だあ?」
「8じぃー……18。間に合うかね」
テツの言葉に、「ぷふぁっ」とペットボトルから口を離したトシは、
「よゆーよゆー。スグルさっさと用意して行こうぜ」
「あいよ」
8時半には教室に居なくてはならないから、それまでにちゃっちゃと食堂で朝食をとらねばならない。
スグルはすでに着替え終わっている二人を待たせないように素早く着替え、三人は部屋を出た。