複雑・ファジー小説
- Re: 【Season 1】 ステグラ 【夏】 ( No.29 )
- 日時: 2012/09/02 05:20
- 名前: ヲーミル (ID: udGLrEOr)
- 参照: みんな更新スピード早くないっすか!?!?
PART 4 「追跡」
1
ザグレフは、その側近と共にリンゲ港にいた。
夕日に照らされ、ダイヤモンドの粒をまき散らしているかのような海に、二、三の船が見える。
港には様々な軍用潜水艦やら艦隊が並び、その中に『キャットフィッシュ』の姿も確認できた。
「司令、一体なぜこのようなところに……?」
今だ戸惑いを隠せない側近が、ザグレフの顔色をうかがう様に尋ねた。ザグレフは海を見つめながら答える。
「紹介したい男がいる。まぁ、言うところの魔法使いって奴だ」
「ま、魔法使い?」
側近は動揺する。ザグレフは微笑しながら側近を見下ろした。
「あぁ。我々が科学で意志を統一しようものなら、彼は魔法でそれを行う」
側近はまだよく分からないといった顔つきだったが、ザグレフは踵を返して海に背を向けた。
「行こう。あそこのバーにいるはずだ」
ザグレフの向かう先には、確かにこじゃれたバーが見える。
仮にも軍事施設の塊であるリンゲ港にこんなものがあるとは、側近も知らなかった。
「失礼」
木製のドアを開けると、薄暗い店内に夕日が差し込んだ。そしてその光が差す先に、彼はいた。
ザグレフはバーに足を踏み入れ、側近がその後を追う。
店の中は結構狭く、客はカウンターに座っている彼以外いないようだった。マスターの姿も見えない。
「……SPFのお偉いさんが何しに来た」
男はザグレフ達が声をかける前に口を開いた。ビールジョッキを持ち上げ、金色の液体を喉の奥に押し込む。
ザグレフは少し驚いた顔をしながら男に声をかけた。
「我々をご存知かな、ジャック・ダーツ」
ジャックというらしいその男は、名前を言われて眉を持ち上げた。静かにこちらを見上げる。
「隣、いいかね」
「……あぁ」
ザグレフはジャックの左隣りの椅子に腰を掛けた。側近もその隣に座る。
「で、何の用だ」
「貴様の創り上げた基地に案内してもらいたいんだ」
「——俺の基地[マジック・ハウス]に……?」
ジャックは驚いたように言った。ザグレフはそれを聞いてフッと笑う。
「マジック・ハウスか——。いい名だ。まぁ、色々と事情を話せば長くなる。
単刀直入に、我々は貴様の施設を利用したいんだ。協力してくれるか?」
ジャックはしばしビールジョッキを見つめ、そして顔をあげた。
「分かった。どういう経緯かは知らねぇが、いいだろう。ついてきな」
ガタリと音を立てながらジャックが席を立つ。
「勘定は」奥から白髪のマスターが顔を出した。ザグレフは適当に札をカウンターに置き、ジャックの後を追った。
「……一応確認するが、使う目的は俺が知っている通りでいいんだな?」
店の外に出て、潮風に吹かれながらジャックは言った。ザグレフはその背中に声をかける。「もちろんだ」
ジャックはハン、と笑って再び歩き出した。
「俺の車に乗せてやるよ。ただし、一人はトランクだ」
「え、あぁ……」
今まで黙っていた側近が頭を掻きながらペコペコする。その時、ザグレフの耳に無線が入った。
『ターゲット、発見しました。これより確保に移ります』
「そうか。ご苦労。こっちの手配が済むまではどこかに拘留しておけ」
『了解』
ザグレフは耳元から手を外すと、静かにほほ笑んだ。