複雑・ファジー小説

Re: ステノグラフ ロケーション ( No.46 )
日時: 2012/10/05 23:47
名前: ヲーミル (ID: SLbP8tlp)
参照: 今まで二字熟語で統一してたのを忘れてたので変更。

PART 5  「少年」



          1



トシ達はもう一度外に出て、トラックの裏に息をひそめていた。

「これでよし」
そういってテツの携帯を切ると、テツが顔を覗かせた。
「なんだって?」
「サキが見つかったら連絡しろとよ。とにかく携帯取り戻さねぇと」

そういってトシは携帯をテツに渡す。「ちょっと手伝え」


自分の能力についてはかなり理解してきた。
姿の消し方にはいろいろと段階があり、たとえば視覚を消せば自分の姿は見えなくなる。
聴覚を消せば自分の声は聞こえなくなるし、触覚を消せば触れなくなる。

五感の全てを消すと完全に世界から「離脱」した存在になれるというわけだ。
しかし、先ほどまでこの「幽体離脱」は移動が出来ないものだったが、どうやらそうではなかったらしい。
現に、先ほどここまでふわりふわりと飛んできている。


トシはそんなことを思いながら運転席への足場に足を乗せた。もちろん姿は消している。
ただ、触れないとしょうがないので触覚は消していない。すると、必然的に音が発生する。

聴覚も消せるのだが、それは自ら発信する音、すなわち声や息などが当たるため、
トラックに手をついて生じる音までは消すことが出来ない。


慎重に手を掛け、運転席まで上りあがる。ここからが肝心だ。

一瞬だけ力を抜いて、トシはテツに顎を振った。頷いてテツがトシの足元に寄る。
テツが手を差しだし、そこに足を載せた。バランスが崩れそうになるが、何とか立て直す。

そして——




『——ボンッ』



——やばい。

トシは運転席の上に這いつくばって、テツに腕を伸ばした。身長の低いテツが背伸びをしてそれを掴む。


二人の姿はふっと消えた。

だが、消えたのは音と姿だけ。もし警備兵にでもぶつかれば、すべてが終わる。
……そして、そいつはやってきた。


トラックの後部からゆっくりと歩いてくるそいつは、顔を黒いマスクで覆っており、その素顔は確認できない。
黒い戦闘服を着込み、体の前で小銃を握っていた。

神経を集中させて、トシは祈った。


——頼むから引き返せ。


……だが、事は最悪の事態に及ぶ。


男は耳元に手を当て、聞き取りにくい英語を発した。

「こちら14番。駐車場より物音を確認。侵入者の可能性あり。総員厳重に警戒せよ」


もう無理だ。

トシは全てを断ち切って、上空に離脱した。眼下に敵の基地が広がる。


「し、死ぬかと思た……」
「仕方がねぇ。携帯は諦めてサキ探すぞ」


トシはテツの手首をつかんだまま、ガレージ上部へと体を移動させた。