複雑・ファジー小説
- Re: 神喰い【イラスト募集中!】 ( No.191 )
- 日時: 2012/12/17 22:08
- 名前: saku ◆vSik97dumw (ID: KXQB7i/G)
- 参照: http://cdn.uploda.cc/img/img5058745d44670.png
第四話(パート9)
黒風の握る刀が、雲井の体に迫る。
と、同時に、伊森の蹴りが雲井の体を抉ろうと迫ってくる。
しかし。
少し体を逸らし、すべての攻撃を受け流される。
状況と状態を把握し、冷静に考えた結果、雲井は無理に攻めず、戦闘を長引かせる事にした。
なぜなら、人質、雷牙が死ねばこの二人の精神的ダメージは計り知れないからである。
雷牙が死んだ事が分かれば何かしらの隙が生まれてくるのはほぼ確実。
雲井はその瞬間をねらっているのである。
しかし、この時雲井は見誤っていた。
伊森の実力を、そして、黒風のポテンシャルを。
さらに言うなら、雷牙を。
肩を割かれ、血を流しながらも雷牙は蟻と戦っていた。
ここで引いてはいけない、なぜなら、春はまだ戦っている。
朦朧とした意識の中、それだけを思い、傷だらけの体を引きずり蟻に立ち向かう。
すでに体はボロボロになり、蟻の攻撃も数発くらってしまっている。
それでも。
(まだだ……耐えろ……)
ほとんど意識の無い状態で、それでも雷牙は前を向く。
(春はまだ戦ってるだろうが……まだ諦められないだろ……)
もはや意識して動かしてなどいない、無意識に、本能に従って、その体を必死に動かす。
しかし、現実は厳しい。
もつれた足が絡み、その場に倒れる雷牙。
次の瞬間。
「ルァァアァァアァア!!!」
蟻が雄叫びを上げ、顎を開いて雷牙を喰らおうと襲いかかった。
(だめだ……まだ……)
「まだ……終われない……!」
雷牙の体を蟻の牙が裂こうとしたその瞬間。
カッ……チ……
と、まるで時計のような音がして。
世界が止まった。
『しょうがないなぁ、雷牙は……』
止まった世界に、まるで鈴が鳴るような澄んだ声が響いた。
『やっぱり、僕がいないとだめだね……』
姿も形も見えないそれを、雷牙はなぜか懐かしく感じた。
「誰だ……?お前……?」
『忘れちゃったの?ひっどいなぁ……』
拗ねた声で抗議しながらも何処か楽しそうにそれは言った。
『まあいいや、今日は、僕が雷牙を助けてあげる、その代わり……』
「その代わり……?」
『次に会う時には、ちゃんと思い出してね?』
そう言うと、それはいなくなったようだった。
それがいなくなると同時に、止まった時がまた動き出す。
新しい現実が、雷牙を迎え入れた。