複雑・ファジー小説

Re: 神喰い【イラスト募集中!】 ( No.201 )
日時: 2013/01/13 10:41
名前: saku ◆vSik97dumw (ID: KqRHiSU0)
参照: http://cdn.uploda.cc/img/img5058745d44670.png

第四話(パート12)

ドガン!ガシャァン!と、砕いた床と屋上の機械が落下し、騒々しい音を立てる。
落下の衝撃で貯水タンクに穴が空いたのか、辺りは水浸しになっていた。
さらに、配線が切れたのか電気が消え、辺りは天井の穴から入る光以外は暗闇に染まっていた。
その闇の中、紅に光る瞳が、前を見据えて剣呑に輝いてた。
「ルルル……」
周りを見渡しながら、獣のように唸り、目標を探す。
ピリピリと空気が張り詰め、暗闇がプレッシャーを放つ。
しばらく膠着状態が続き、そして。
水溜りに落ちた水滴が奏でた、ポチャンという音を合図に、三人が再び動き始めた。
まず始めに動いたのは雲井。
先ほど受けたダメージから、正面から黒風と戦うのは危険と判断し、右手に銃を、左手に傘を持って黒風の後ろに滑り込んだ。
しかし。
「ルォッ!!」
先ほどの黒風からは考えられないような反応スピードで、振り向き、裏拳の要領で黒風が雲井の頭を撃ち抜こうと拳を振るう。
「ぐっっ!!」
予想外の威力とスピードに対し、雲井は少しだけ体を後ろに逸らし、傘で拳を受ける。
バギャァッ!という鈍い音が響き、雲井が後ろに2〜3メートルほど吹き飛ぶ。
そのまま空中をしばらく飛び、体を捻って着地する。
そして、黒風に銃を向けトリガーを引く。
パンッパパンッ!と、銃声が響く。
重力8gの9mmパラベラム弾が、秒速355mというスピードで黒風の頭蓋に風穴を開けようと襲いかかる。
だが、その弾丸が黒風の頭を撃ち抜く事は無かった。
黒風は、銃声とその大きさ、そして、異常に発達した視覚を使い、銃弾の弾道を予測。
最後には動物的な勘で姿勢を低くして、銃弾をよける。
そのまま両足に力を込め、次の瞬間。
バキャッ!!という音を響かせ、黒風の足元の床に亀裂が入り、爆発的なスピードで黒風が雲井に向かって行く。
トリガーを引く余裕もなく、黒風の右腕が雲井の体を捉えた。
ドゴッという鈍い音、続けて雲井の体が宙に浮く。
「がっ……!?」
振り抜いた拳が、雲井の体を吹き飛ばす。
バキャッ!ドゴッ!バガァンッ!!と、周りのコンクリートを粉砕しながら、雲井の体が吹き飛ばされる。
「オッ…オオォォオオォオオオォォォオ!!!」
咆哮を上げ、既に動く気配の無い雲井を追撃しようと黒風が足に力を込める。
しかし。
「やり過ぎだっつの……」
気だるそうな声、続けて床に手をつく。
すると、バキャキャキャキャッ!と音がして、床が姿を変える。
平らなコンクリートの床は黒風を縛るロープのように姿を変え、腕、足、胴を縛り付ける。
さらに太い柱のような姿に形を変え動けないように黒風の四肢を固定する。
「ふぅ……たく、こんなにしちまって……」
やる気の無い声で、声の主、伊森はそう呟くと、雲井の倒れている場所に向かう。
「よぉ、いいざまだな」
「……殺すなら殺してくださいよ、僕も覚悟は出来てますからね」
「命乞いをしないのは高評価だけどよ、それは無理だな、あんたにはまだ聞かなきゃいけない事が多くてね、それに、人殺しはごめんだ」
「……甘い、あなた達八咫烏は本当に甘いですね、ここで殺さないなら、僕は必ずあなたに復讐しますよ」
「……確かにリスクは高いかもしれない、それに比べてメリットはほとんど無いだろう、お前みたいな下っ端の持ってる情報なんてたかがしれてる」
「それがわかってるならなぜ殺さない!」
激昂し、雲井は感情的になり怒鳴る。
「あなたにわかりますか……周りの全てが消える悲しみが、力に溺れる人の心が、壊さずにはいられない私の苦しみが!」
心の内を吐き出し、雲井はそういった。
だが。
「知らねーよ」
雲井の怒りを嘲笑うかのように、伊森は気だるそうにそういった。
「なっ…!」
「お前の気持ちなんかさっぱりわかんねぇ、俺はお前と違うし、お前は俺じゃ無い、けどな」
そこで言葉を切り、伊森はいつもの調子で当たり前の事を当たり前に言うように。


「わからないから、わかりたいから、理解しようとするのが人間なんじゃねーの?」


雲井に向かってそういった。
「…………はっ」
気付くと、雲井は笑みを浮かべていた。
今までずっと呪って来た。
自分の過去と、守れなかった自分自身。
無関係の人間の、無神経な眼差し。
理解出来ていない癖に「わかるよ」という他人達。
興味本位で近付く屑に、人間に、呆れていた。
だが、目の前の男は、お前の気持ちなど知らないと、全てを否定して、その上で。
理解しようとするのが人間だと、そう語る。
「……でも、やはりあなたと僕は違う、僕は今更主人を裏切る事など出来ないのでね、ここで退場させてもらいますよ」
「……?……!?」
雲井の台詞に違和感を感じた時にはもう遅かった。
「さよなら、伊森さん、僕の唯一の理解者」
雲井の近くに落ちている、大量の薬品瓶。
可燃性の液体が気化した、独特の匂いに気付いた時にはもう手遅れだった。
「くっっ!!」
全力で後ろに飛び、コンクリートの壁に体を隠す。
次の瞬間。
パァン!と銃声が響き、カンッ!という音を立て、金属に接触。
微かな火花が湧く、そして。

バァァァァァアァアアァァアァァアアン!!!!!!

と、凄まじい音が鳴り、気化したガソリンに引火、爆発。
孤独に戦った一人の男を飲み込んで、焔は激しく燃え上がる。
「雲井っッ!!」
伊森が焦って叫ぶが、もはや、その声は届かない。
凄まじい熱量を持った焔が伊森の目の前を焼き尽くす。
その赤い炎は、暴力的に全てを燃やし、燃え続けた。
雲井の姿は既に見えなくなっていた。