複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】日常とは何なのかと申しますと ( No.14 )
日時: 2012/10/16 21:38
名前: 稲荷 ◆6RQCIAKXwE (ID: 5oJbC9FU)

『明日があるさと信じてみる』

「リア充なんて爆発すれば良いんだ」

 私の部屋に入るなり言ってきた友人の言葉。ノックもせず、パジャマ姿のままで入り込んできた馬鹿者は、真っ赤な目でそう告げた。
 日曜日の午前5時。普段だったらまだ夢の中に身を置いている私は、無理矢理現実へと引き戻した元凶へと枕を投げた。

「そのリア充になろうとしてたのは誰?」
「うっさいわ!!」

 まだ私の半身が埋まっている毛布にダイブすると、うわーんとばたばたと四肢を動かした。今日干そうかと思っていた布団から埃が飛び、開いたカーテンの隙間から漏れる朝日に反射してキラキラと光った。が、そんな光景を美しいと思う輩などいるだろうか。私は未だに泣き声というより鳴き声をあげている友人の頭を、思いっきり叩いた。

「いたっ!」
「寝起き3分で埃まみれになった私の心に比べたら、そんなのかゆくもないでしょ」
「良いじゃん別にー。それより、なんで私が泣いているのか聞かないわけ!?」
「興味ないから」

 そう言うと、再び布団につっぷす。
 ……面倒くさい。
 大きく溜息をつくと、ちーん! というなんとも間抜けな音が聞こえた。
 ……おい。

「まだ寝ている布団で鼻かむ奴がどこにいる!!」
「此処にいる!!」
「ドヤ顔うぜぇ!!」

 アッパーカットを決めると、床に大の字にのびた。
 もとより、このバカはプロレス技を掛けられてもくたばるまい。その結論にいたり、私は鼻水で汚れた布団を洗うべく立ち上がった。
 ……が、それをバカに阻止される。

「良いから話を聞〜い〜て〜よ〜」
 
 足に縋り付く友人。いくら足で踏んでもめげやしない。その雑草さながらの姿に、私は一つ大きく溜息をついた。バカは諦めが悪い。
 ……ここは、早々に話を切り上げてご帰宅願うか。
 その方が早い気がする。

「……それで? 一体何があったの」
「さっすが私の友達の友達!!」
「そうですか。それはお気の毒様それではまた」
「待て待て待て!! 分かったごめんなさい! あなたは私の大親友でございます!!

 浮かしかけた腰を渋々と下ろし、顔を友人に向ける。今度くだらないことを言ったらぶっ飛ばすと視線にこめて。
 それが伝わったのか、友人は少しばつが悪そうに視線を逸らした。そして、体育座りをして膝頭に額をつけた。

「……好きな先輩に、フラれた」
「……そう」
「……好きだったのに」
「…………」
「今年の夏休みが終わるまでにリア充になろうと決めてたのに……!」
「……それで? 告白して今の今まで悔し涙で枕をぬらしていた、と」
「ううん。告白してまだ5分しか経ってない」

 ——は?
 このアホは何を抜かしているんだろうか。それとも、私の頭はまだ寝ぼけているんだろうか。
 ——コクハクシテマダ5フンシカタッテナイ。
 ——告白してまだ5分しか経ってない?
 整理しよう。現在の時刻は5時5分。夏といえど、まだ外はうっすらと暗い。こんな時間に、この単細胞は告白したというのか? 何で?

「もちろん、電話で」
「……メール、じゃなくて?」
「メールだったら、いつ見てくれるか分からないじゃん。私はすぐに返事が欲しいの」
「……返事は?」
「“君みたいな女の子と付き合いたくはない”」
「…………」
 
 開いた口がふさがらない。まさにこれがそれ。
 きっと、その先輩は心が広いのだろう。本当は“君みたいな非常識な女の子とは付き合いたくはない”と言いたかっただろうに、この能なしに気を遣ってその部分をオブラートに包んでくれたのだ。それなのに、このボケナスは——

「さ、とっとと出てって。今からこの誰かさんが汚した布団を洗わなくちゃ行けないの」
「ちょ、私の心は!? 失恋して粉々になった私のハートは元に戻してくれないの!?」
「粉々? ダイヤモンドの心を持ったお前が?」
「確かに私の心はダイヤモンドのように美しいけれど——」
「堅さだ馬鹿者」
 
 今度はその何も入ってなさそうな頭に一発お見舞いする。
 カランと鈴を振ったような音がするかと思ったら、意外にもゴチンっと鈍い音がなった。拳は痛むが、いくらか心がすっきりする。これはれっきとした八つ当たりではなく制裁だ。
 ちなみに、今日が夏休み最終日。明日からまた目まぐるしく、混沌とした毎日が始まる。友人の目標であるリア充計画は幕を閉じたけれど、非リア充なりのくだらなくも楽しいおしゃべりが再開するのであろう。
 涙目で抗議してくる友人を尻目に、私は洗面所へと向かった。

「ねぇねぇ、失恋パーティーしない? この間出来た駅前のケーキ買ってきて」
「奢らせる気満々ね」