複雑・ファジー小説
- Re: 【短編集】日常とは何なのかと申しますと【1話完結型です】 ( No.16 )
- 日時: 2012/12/10 15:31
- 名前: 稲荷 ◆6RQCIAKXwE (ID: npMPGGPe)
『大さじ一杯の甘味料を苦い毎日に』
「——やめ」
教壇に立つ先生の声に、私は大きく息を吐いた。持っていたシャーペンが机上にころんと音を立てる。重たい頭をゆっくりと回すと、ごりごりと十代女子としては喜ばしくない音が鳴る。
テスト最終日の今日。この一週間夜を徹して勉強するのも終わり、ようやく肩の力を抜くことが出来るだろう。見れば周りも同様で、クラスメイト各々が友人達と談笑している。男子に至ってはすでに放課後の予定なども話しているようだ。
「おーい、早くテスト回収してこいよー」
いっこうに集まらない解答用紙を案じて、先生が声を上げる。一番後ろの人はまだだろうか。席が一番前の私は、さほど急ぐ必要はない。さて、放課後はなにをしようか。
この後は下校するだけで、先日引退した吹奏楽部に行くことはない。受験生なのだから、やはり帰って勉強だろうか。
「はい、テスト」
「ん。お願いします、と」
回収してくれる男子生徒に解答用紙を渡す。ほとんどが文字で埋められた解答用紙。今回はそこそこ手応えがある。なにせ、人生で一番勉強したと思えるぐらいなのだから。
けれど、今まで以上にやらなくちゃダメだよね。
大切な本番まであと100日と、誰かが言っていた。時間にすればもうそれ程しかないのだ。勉強できるのはあと100日。勉強しなくてはいけないのはあと100日。
“あと”と考えるべきか、“もう”と考えるべきか。
「お前ら、遊んでるヒマなんてないぞ。さっさと帰って勉強しろ」
先生の言葉に、たちまち教室中からブーイングが飛び交う。その光景に思わず苦笑を漏らす私に、後ろの席に座っていた友人が身を乗り出した。
「ね、放課後うち来ない?」
「……さっき先生が言ってたこと、聞いてなかったの?」
「んなわけないでしょ。ちゃんと聞いて、通り過ぎてったの」
それは聞いてないのと同じだろう。
「昨日発売したCD、一緒に聞こうよ」
「V系だっけ? 私、そっち方面はあんまり興味ないんだけど」
「大丈夫大丈夫! イケメンしかいないから」
「何を根拠に……」
「んーと、じゃあこうしよう! 帰りに駅前のケーキ屋さんで一つ奢るから。どうせだったら、曲を聴きながらスウィーツタイムというのも良いんじゃない?」
「流れてる曲がV系じゃなければね」
換気するために開けられた窓から、冬の冷たい風が入り込んでくる。ストーブによって温められた頬を撫で、心地よい冷たさだ。
空は雲一つ無い。風が全てなぎ払ってしまったのだろうか。そうだとしたら、じきに沈む太陽の朱が映えることだろう。そんなことを頭の片隅で考えながら、私は友人の楽しい提案に耳を傾けた。
———————————————————————————————————————————————————
【1088字(スペースなど込み)】
実際にテスト開けに執筆した物です。
1、2週間程創作していないだけで、随分と腕がなまるものだと痛感致しました。それ以前でも良い腕をしているとは全く言えないのですが。
テスト中に考えついた物でして、やや満足に書ける完成となりました。おそらく、時間が空いたら手直しをするかと。
お目汚し、失礼しました。
