複雑・ファジー小説
- Re: 【短編集】日常とは何なのかと申しますと【1話完結型です】 ( No.18 )
- 日時: 2012/12/16 12:56
- 名前: 稲荷 ◆6RQCIAKXwE (ID: npMPGGPe)
『哲学? いいえ、これはただの弱虫なだけです』
たとえば、失敗してしまったとき。
たとえば、自分の間違いを指摘されたとき。
たとえば、自分が嫌いになったとき。
ふとした瞬間に、人はこう考えてしまう。
——自分とは何か。
自分は何故存在し、自分は何故生き、何故自分は此処にいるのだろうかと。
それが哲学科と聞かれたら、私は答えられないだろう。ただ純粋に思うのであって、答えを見つけるためではない。
「そう言っても、あんたって単純に凹みやすいだけでしょ」
「……そう、かなぁ?」
私の前でラザニアをつつく友人が、フォークの先でぴっと私を示した。そのフォークにはしっかりとパスタが刺さっており、美味しそうにチーズが被さっている。私はそれを迷わず口の中に収めた。
「あぁっ!?」
「ん、やっぱりここのラザニアは美味しいね」
「ちょ、人の許可もなく食べないでよ!!」
「食べてくださいって言わんばかりに差し出したのは、誰だったかな?」
「言ってない!!」
本気で涙目になっている友人に、ちょっとばかり申し訳なく感じる。
けれど、
「……クリームあんみつバニラアイス添え奢ってね」
「一口食べた割には随分と高い代価だね」
とりあえず無視して、私は自分のパエリアを片付けることにした。
先ほど正午を過ぎたファミレス店内は、入れ替わり立ち替わり客が入ってくる。日曜日と言うことも重なるのだろう。家族連れが多く、私たちのような制服姿の女子高生は埋もれてしまっている。
傍らに置いてあるクラリネット。友人の隣にはフルートが置いてある。部活帰りである私たちは、その足で学校近くのファミリーレストランに入ったのだ。私たちが入ったときはまだ客入りピークの直前だったようで、なんなく入れたのは幸いだったのかもしれない。
「でもさ、たしかにあんたの言いたいことは分かるかも」
フォークの先でつんつんとチーズをつつく友人。私はあえて言葉を返さず、かといって続きを促すわけでもなく、ただ「ふうん」と言った。
「うちら、今年で最後じゃん? せめて、最後ぐらいは華やかに飾りたいのに……。顧問やあの巻き毛部長のおかげで、メンバーから外されそうだし。1年は今年実力は揃いだし、2年は生意気にもうちらをライバル視してるし。ほんと、うちらの出る幕無いって言うか、面目丸つぶれって言うか……」
愚痴にも似た言葉が、私の耳にダイレクトに入ってくる。子供の声やナイフやフォークが食器にぶつかる音など、様々な音が飛び交う中で。友人の言葉は静かながらも私に届いた。
食前に淹れたコーヒーをすする。苦い香りがほのかに漂った。
「……うちら、部に必要とされてないのかなぁ」
——それ、さっき私が言った言葉。
のど元まで出かかった言葉を、くいっとコーヒーと一緒に飲み込みこんだ。そして、意気と一緒に言葉を吐き出す。
「別に、さ。部に必要とされなくても良くない?」
「はぁ?」
何言ってんのあんた。そう言いたげな瞳で、友人は私の目を射貫いてくる。私は、なんだかさっきとは逆だなぁと思いつつも、残り少なくなったコーヒーにミルクとシロップと佐藤を入れた。瞬く間に色が変わっていくカップの中を、スプーンでくるくるとかき回す。
「コーヒーに、ミルクとシロップと砂糖を入れる人と入れない人がいるじゃない? それと一緒。必要とする人が居れば、居ない人もいる。私みたいに、最初はブラックで飲むけれど、最後に全部入れる人も居る」
「……あんたのそれは、結構特殊だと思うけど」
「それでも、必要のされ方って様々でしょ? 部に必要とされる人も居れば、居ない人も居る。それに……、誰もあなたが必要とは言ってないし」
まんべんなくかき混ざり、甘ったるくなっているであろうそれをあおる。喉のおくに落ちていったコーヒーは、思った通り甘い。当然だろう。残り少ないところに甘いものを全部ぶっ込んだんだから。
これは、私の癖だ。最初は苦いブラックで飲み、最後は甘く占める。奇妙な飲み方をする私を、家族でさえも信じられないという顔をする。
「……あんたは、さ」
「ん?」
「私のこと、必要だと思う?」
恐る恐るというような感じで、私の顔を見つめる。
これでは、さっきとは逆ね。
私を励ましていた友人ではなく、友人を励ます私。
そんな友人に、私は笑顔を見せた。
「あなたの激しすぎるフルートを認められるの、私ぐらいでしょ」
私は誰に必要とされているのか。
それは哲学でも何にでもなくて、ただ、ちょっとした弱音なだけなんです。
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【1843文字(スペース、記号含む)】
久しぶりに1500文字行ったような気が致します。
相変わらず落ちの付け方がひどいものですね。描写よりそちらを上げたくなります。
実は私自身がものすごくメンタルが弱く、何かと凹むことが多いのです。そんな時って、ちょっと哲学的思考に走ることがあるので、その辺りを書けたらなぁと。
