複雑・ファジー小説

Re: 【短編集】日常とは何なのかと申しますと ( No.6 )
日時: 2012/08/13 21:31
名前: 稲荷 ◆6RQCIAKXwE (ID: SGJxjeZv)

『居候は座敷童か煩わしいか』

 きんきんに冷えた部屋の中で、白いキャミソールにホットパンツ姿の女性が寝転がっている。否、寝転がっているというよりも単純に転がっており、その塊は微動だにしない。私は涼しいを通り越して寒くなっている原因であるクーラーのリモコンを手に取ると、問答無用にその活動を停止させた。

「……生きてる?」
 
 私の問いに屍同然と化している友人は、うつぶせになっている体をごろりと仰向けにした。決して豊かとは言えない女性的部位がわずかに上下する。良かった、息はしている。文明の利器によって危うく物言わぬ体となるのを防げたようだ。とは言っても、この冷蔵庫の中と言っても過言ではない部屋の中で冷たくなっていても、あまり大差がない気がするけれど。

「世の中は節電だというのに、よくもまぁ20度まで下げることが出来たね」
「熱かったんだもん」
「字が違う」
「厚かったんだもん」
「あんたの脂肪が?」

 無言で側にあったハート型のクッションを剛速球で投げられた。ラブリーな形をしているけれど、凶器に近い早さで投げられると自分の心臓を連想させて怖かった。
 キャッチしたクッションを床にたたきつけると、部屋を見渡した。白と青を基調に整えられた部屋は、清涼感漂うクールな色合いだ。けれどその部屋主である友人は、ダメ人間を具現化したような人間であり、なおかつこの部屋は元私のだというのだから笑える。

「居候が電気料上げるなんて、良いご身分ね」
「居候じゃないって、座敷童だって」
「こんな現代社会に毒された座敷童はこっちから願い下げよ」
「幸をとどけるぞ〜」
「辛の間違いじゃないの?」
「漢字のミステリー」
「バカなこと言ってないで、さっさと起きなさいよ」

 マグロの如く横たわっている友人をつま先で軽く蹴飛ばすと、私はフローリングの上にぺたりと座った。心地よい冷たさが肌に伝わり、思わず頬が緩む。
 近くの本棚から分厚い小説を取り出し、用意しておいたポテトチップスの袋を開ける。ティッシュボックスも用意して、完全装備。嬉々として表紙をめく——

「……何であんたがポテチをどか食いしてんのよ」

 ろうとした手を止めた。触れるはずの袋はそこに存在しなく、代わりにむなしく中をかいただけ。

「そこにあったから」
「ジャイアニズムか」
「あなたのものは私のもの。わたしのものはわたしのもの。地球全部はわたしのもの」
「ジャイアンよりひどいわね」

 もうやだこの人。
 心の中で溜息をついているにもかかわらず、友人はそのままポテトチップスを全て平らげてしまった。あぁ、さようなら私の嗜好品。

「ねぇ、もうないの?」
「自分の胃の中から取りだしては如何?」
「あはは。冗談きついんだから」

 絶対零度の笑みを見せて居るであろう私の言葉が、冗談に聞こえたら友人は耳鼻科に行った方が良いかもしれない。
 ちぇー、と呟いた友人は再びごろごろの魔神となる。きっと部屋の掃除をさぼっているのだろう。うっすら誇りのかぶっているフローリングを、自らの体で掃除を始めた。
 ……ごろごろしている人間も、役に立つらしい。掃除機として。
 私はその光景を目尻にとらえながら、本の世界に没頭することに決めた。


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 自由奔放な友人と、それを冷ややかに見つめている「私」のお話でした。
 私はおそらく「友人」の方だと思いますが、それを見る私の友人はきっとこんな風なのだろうかななどと。
 やや遠回しな言い回しは、現在アニメ化もしている田中ロミオ先生の「人類は衰退しました」の書き方だったので、少しそれを意識しながらかいてみました。