複雑・ファジー小説

Re: 幸せの魔法 ( No.26 )
日時: 2012/08/22 14:16
名前: 夏樹 りん ◆IP0D6MCWdg (ID: xIyfMsXL)
参照: 夏歌、いや夏歌に近い人物のお話。

——気が付いたらベットの上にいた。
明かりが無く暗いが、辛うじて見える見慣れた机を見て自分の部屋だと確信する。
「アレから、どうなったんだ?」
意識を手放す前の事を思い出した。そして夏音という少女のことを思い出した。
「どうして、居たのよ……夏音は、ナツネはもう、居ないじゃないか!」
声を床に叩きつけるように叫ぶ。堪えてたナニカが溢れて、溜め切れなくなくて、辛くて。
「もう……ナツネは、私は——」
——居ないじゃない。

「なんでだよ、なんでだよ! 忘れていたのに、忘れていたかったのに! 思い出したくなんて無かったのに!」
涙の大雨が沢山降ってきた。大雨は弱まることを知らず、ただただ降り続けた。雨が降り続く中、稲妻が走ったような衝撃が私の中で起こった。
「……なつ、か」
そう、私じゃない、本当の夏歌の声がした。とても優しくて、悲しげで、儚い声が。
大雨は次第に弱まってきた。

”夏音、泣かないでよ”
嗚呼、何年ぶりに聞くのだろう妹の声を。私の記憶の中の声より随分と大人びている。
”夏音はお姉ちゃんでしょ? もう一人のお姉ちゃんだって呆れるよ?”
——ナツキ。
もう一人の妹の名前。一体ナツキはどうなった? 私は知らない。
”早く、早く夏音に戻って! 記憶を完全に取り戻して……”
「え? それってどういう意味?」
”でないと、夏音は——”

聞こえていた声は聞こえなくなった。
悲しい。
嗚呼、なんで悲しいことばかり起きるの?
記憶が曖昧だけども取り戻した。でも、思い出すのは全部悲しい事ばかり。一族の間での殺し合い。両親が可愛がるのはいつも……私じゃないこと。誰かを妬んだ記憶。こんな記憶、誰だって思い出したくない。だから消えたの?

「もう、何もかもわけが解んない」
どうしてこの世界に来たのか、どうして幼き日の記憶が無いのか、そして、あの”夏音”は何なのか。

「でも、今思えば不思議だ。魔法が当たり前の世界に来てよくも此処まで普通に居られたな」
きっと、あんなにも簡単に立ち直れない。受け入れようともしない。



「なんか、笑えるな。自分が」

さて、もう一眠りするか。
ベットに身を委ね、意識は真っ暗になった。