複雑・ファジー小説

Re: 幸せの魔法 ( No.37 )
日時: 2012/08/27 13:10
名前: 夏樹 りん ◆IP0D6MCWdg (ID: xIyfMsXL)
参照: 先に物語を更新しまーす!

「……ノワールちゃんについてだけどさ、どうなんの?」
春光はイライラしていそうだ。声が低い。
「……エンシェントで保護されるんじゃない?」
「んーやけど、エンシェント家で保護しとったら同族までも被害が及ぶな〜」
「……まぁ、なんとかなるだろう。分家沢山在るし」
噂だが分家は7家あるらしい。そして、その中でもランクが在るらしい。詳しくは解らんが。

「ノワールについてはなんとかなる」
「てな訳やで、解散!」
カイちゃん先輩の一言で解散することに。私はとりあえず、部屋に戻ろう。色々やりたい事があるしね。



なのに、なのに今カイちゃん先輩と一緒に居ます! 天気が良いので外に居ます! 正直言って、カイちゃん先輩殴りたいです!

「で、大事な話って何ですか?」
「……それはな、エンシェントの事やねん。お前は……」

——知ってるよ、知ってるよ。

だから、


「解っているから、解っているから、言わないで下さい」
あの時に知ってしまった。それから嫌になるほど思い出してきた。
カイ先輩は驚いていた。大きく目を見開いていた。

「あの時に、解ったんです。”私”が何者なのかを。貴方が言おうとした事、それはもう解っています。貴方に呼び出されて、エンシェントの事だって聞いて、確信したんです。私は——」
続きを言おうとしても、言葉が喉に詰まって言えなかった。それでも、言わなくちゃいけないことがある。絶対に言わなくちゃ……

「なら、いいんだ。解っているのならな。——ナツネ」
ナツネ。私の本当の名前。ずっと隠していた、忘れていた名前。ずっと堪えていた涙が溢れそうになった。嬉しくて、嬉しくて。

「ご、めんな、さい。カイ、兄さん。ずっと、忘れて、いて……」
まともに謝れなかった。でも、カイ兄さんは笑ってくれた。昔と変わらないあの笑顔で。
「いいんだ。思い出してくれたんだからさ」
大きな手で私の頭を撫でてくれた。優しい手つきで。
「……有難う」
「どういたしましてや!」


——現実は残酷。でも、それを受け入れたのならば優しさに溢れる。




僕は、カイとナツネの会話を空から見ていた。悪魔だからね、羽根があるから飛べるんだよ。穢れ無き漆黒の翼があるから。

「にしてもさぁ〜、ナツネの記憶が戻っちゃったんだけどー」
「知らねェよ。どうせお前の”お人形さん”がやったことなんじゃねーの?」
と、僕の右腕のベルゼブブが言う。僕の方が上というか上司なんだがコイツはタメ口で話してくる。コイツに限らず全員そうだが。

「お前の”お人形さん”って本当にメンドクセェよな。この前なんてよ、腹を思いっきり蹴ったのによ言うこと聞かねーし」
「ワー暴力反対ー」
「棒読みで言うな! んでもって人のこと言えねーだろ!」

ベルゼブブって本当に余計な事言うな。まぁ、事実だから何にも言い返せないけど。

「はぁ、躾けておくよ」
「犬扱いだな、おい」
腹を抱えてカラカラと笑いながら言うベルゼブブ。相変わらずの下品だ。

「さーてと、帰ろうか」
「はえーぞ、おい」
「じゃあ残れよ」
「はい、帰ります」
全く、世話のかかる右腕だな。世話のかからないコイツはありえないだろうな。


僕は魔法を発動させ、我らの城へ帰った。


——平和はもうすぐ終わるのに、のん気な奴らだ。