複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.10 )
日時: 2013/09/04 12:32
名前: 黒雪 (ID: oQpk3jY4)

一章 第二遍




「だめ! なんにも思いつかない! 提出期限来週なのに物語の軸さえ決まってないなんて……」

 聖翔大学の一角にあるカフェテリア。今日も大勢の学生でにぎわう中、窓辺にも拘らず日陰になっている特等席には一人の女子大生が陣取っていた。
 彼女は早川咲月。聖翔大学の文化構想学部、論系ゼミを専攻している。具体的に何をするところなのかというと、文庫本の装丁、作品の執筆、雑誌編集のレイアウトなど執筆や出版業に係わる内容を勉強する。
 そこで出された今回の課題は、原稿用紙30枚ほどの長さの短編小説を書いてくること。しかし、彼女は物語を書き始めてもいない上に、何を書くのかさえ決まっていないのだ。
 黒い、セミロングのストレートヘアーを無造作にかき上げると、それまで髪に隠れて見えなかった顔が現れ出た。パッチリとした黒目に色白の肌。唇に引かれたピンクのルージュ。人形のような顔立ちは、自慢でもありコンプレックスでもあった。
 自慢できる部分は、女の子っぽい格好なら何でも似合うことだ。スカートやワンピース、フリルやレースといった類ならなんでも合う。もともとそういう格好が好きなのでよく着ているせいもあるだろうが、与える印象としてはばっちりだ。
 しかし、顔立ちが幼いため高校生や、さらには中学生と間違われる事だってある。いくら身長が163cmと高いとはいえ、大学一年生になってまで中学生に間違われたくない。

「どうしようかな……キーワードや登場人物は浮かんでるんだけど書き出しが思いつかないんだよね……。どうしよう……」

 窓際でブツブツと独り言を呟く彼女は、傍目から見ていると少し変人にも見える。
 ふと、彼女は何か思いついたように脇においてあった鞄を開けると、中からピンク色の財布を取り出してカードを全て、目の前にあるテーブルの上にぶちまけた。
 しばらく何事かをやっていたが、数分後。テーブルの上のカードが全て財布の中に納まった時、彼女の手には1枚のカードが握られていた。


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「行くしかないわね」

 彼女は特等席を立ち上がるとカフェテリアの出口へと歩いていった。
——その後。特等席を巡って他の学生たちは熾烈な争いを繰り広げたそうです。