複雑・ファジー小説

Re: 【更新再開】君を探し、夢に囚われる【お待たせしました】 ( No.100 )
日時: 2014/03/25 22:34
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: 5T4lUgOl)

三章 第一遍 第二幕




 ペタン。ペタン。
 誰もいない廊下に、足音だけが不気味に響きわたる。頭の中に浮かんだ疑問の答えを探すかのように、ゆっくりとあたりを見回しながら歩いてゆく。
 そういえばこんな感じだったな、と懐かしく感じたのも束の間。小さい頃の身体をしているのに、思考回路は大人のままで、不自然さを感じたから。
 小さい頃に感じていたことが、どんどん大人の視点で塗り替えられていく。それが、思い出を塗りつぶされているようで怖くて、切なくて。なのに、それが楽しくもある。子供の時は見えなかったもの、気づかなかったもの、同じ場所なのに全然違う場所のように見えた。
 天井からぶら下がっていた表示はそんなに高くなくて、手を伸ばしたら触れられた。暗闇の中では見えづらい、赤で書かれた文字。なんでこんなにはっきり見えたのか、今わかった。
 文字の周りをふちどるように、蛍光塗料が塗られているのだ。そして、その表示をライトが照らしている。ライトは天井に埋め込まれており、一見しただけではわからない。しかも、不思議なことに、光の筋ができていないのだ。
 普通、暗闇の中でライトをつけると光の筋ができる。でも、このライトは光の筋を作らずに表示を照らしていた。

 驚いたでしょう。まだ研究段階だから、この研究所でしか使われていないけれど、実用化すれば今よりもっと世の中は便利になる。他にもいろいろあるわ。この蛍光塗料もそう。どんなに少ない光でも発光する。だから、暗闇に赤い文字で表記しても絶対に見えるの。

 頭の中で、沙羅が話しかけてくる。1つの身体に、2人で共存している関係が少しむず痒くて、心地よい。2人の人格が混ざりあって、別の人格が作り出されそうで怖くもあった。
 幼い頃の身体に宿っているのか、大人になった現在の身体に宿っているのかの区別すら危うい。急に視点が低くなったかと思えば、また高くなって、全部ごちゃ混ぜになる。
『好星企業 夢見研究所』。この表示は、テレビで小さい頃何度も見た。『死刑制度』『Traum Morgen』。小さい頃はよくわからなかった言葉。
 いかにこの装置の発明が素晴らしいことなのかも、死刑という制度の重みも、大人になった今ならわかる。何故あんなにテレビで繰り返し報道されていたのか。人の命の重みが、どれほどのものなのかを伝えていたのだ。

 そんなにすごい機械なんだ……。
 だからこそ、私は閉じ込められた。『Traum Morgen』は、生み出されるべきものではなかったの。