複雑・ファジー小説

Re: 君を探し、夢に囚われる【参照8600突破】 ( No.101 )
日時: 2014/05/25 12:58
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: 5T4lUgOl)

三章 第一遍 第三幕




 そう言い切った沙羅の声は、苦しみに溢れていた。1つの身体を共有していると、その痛みが強く伝わってくる。こんなに近い場所にいるのに、手すら差し伸べられなくて、ただ、もがいていた。
 真っ直ぐ。ひたすら真っ直ぐ進む。
 私たち2人とも、釈然としない思いをそれぞれ抱えたまま、ひたすら真っ直ぐ。でも、そんな不安定な状態に安心している自分がどこかにいて、ギリギリのバランスを保っていた。
 真っ直ぐ。ひたすら真っ直ぐ進む。
 途中にある部屋には、怪しげなものがたくさんあった。
 不気味に光る赤と緑のランプ。ガタガタと音を立てて動く機械。薄紫に発光した液体の中に浮かぶ、紅色の物体。
 そんな怪しげな存在が、不安定な私たちを肯定し、同時に否定もする。
 どれも電気なんて点いていない、真っ暗な部屋の中に置かれていたのに、どうしてこんなにはっきり見えてしまうのだろう。

 子供と大人じゃ、こんなにも見える世界が違うんだ。やっぱり、あの頃とは違う。大人になった分だけ、鮮やかに映っている。
 子供が見る夢と、この機械で大人が見る夢じゃ全然違うわよ。ましてや、貴女の見る夢は、現実世界と繋がっているのだから。

 いったい、そんな場所ををいくつ通り過ぎただろう。
 廊下の奥には、緑色に光る非常口の案内板があって、そこで行き止まりになっていた。
 そういえば、この扉が空いていたことが1度だけあったことを思い出す。
 数えきれないほど見たこの夢の景色は、いくら月日が経っても、いくら回数を重ねても変わらなかった。
 たったの1回、唯一変わった景色だった。
 好奇心に駆られて、恐る恐る足を踏み入れた先にあったのは——。

——あったのは?

「ああっ……!」

 割れるように頭が痛む。プツリと糸が切れたように倒れこんだ身体が薄い緑に照らされる。

「……ごめんなさいね。貴女はこれ以上、あの記憶を思い出してはいけない」

——ちょっとだけ、大人しくしていて。
 心の中でそう呟くと、私は非常口の扉を開けて中へと入っていった。
 非常口の中は、一本道だ。廊下が続いていく方に歩いていけば、研究所の中庭に出ることができる。しかし、所々に脇道も存在するのだ。研究所の至るところにある非常口は、すべてこの今いる廊下に繋がっている。この廊下の床の端にのみ、蛍光塗料が塗ってあり、一目で分かるようにされている。
 何が言いたいか。つまりは、脇道を逆にたどって行けば、誰にも見られずに研究所の内部を移動できるということ。

——四天王が揃ってないうちに、終わらせたい。