複雑・ファジー小説

Re: 【終焉に向け】君を探し、夢に囚われる【参照5桁感謝です】 ( No.106 )
日時: 2014/11/03 17:09
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: osQJhSZL)

三章 第二幕 第一遍




 咲月と沙羅が記憶を辿っている頃、サクラとアオイはイタリアにいた。

「んー! それにしてもこっちは良い空気ねー。やっぱり日本とは違うわー」
「サクラ、観光で来たわけじゃないんだからな」
「わかってますー。でもちょっとぐらいいいじゃないの。どうせ時間はあるんだし」

 やれやれ、ですね。と言ってアオイは首を振る。
 シンシアの町に行くには、少し特殊な方法を必要とする。最先端の科学技術の応用により、町の入り口が隠されているからだ。大きく分けると方法は2つあり、サクラとアオイは一般的な方法を使うことにしていた。

「15時ちょうどに噴水の中を突っ切るねぇ……よくバレないわよね。つくづく思うんだけど、詩織様って賢いわ」
「人目を引きそうだからこそ、気づかれないんだろう。事実、本が出版された時に誰1人シンシアには辿り着けなかった」

 シンシアの町は、現実世界と重なるようにして作られている、いわば仮想空間だ。つまり、普通に生活を送っていればその存在に気がつくことはない。存在を知っているものだけが、仮想空間と現実世界を行き来することができる。
 どんな技術が使われているのかは、四天王すら知らされていない。詩織が1人で作り上げた技術と空間であり、彼女自身しか管理に携わっていないからだ。

「でも、水に濡れちゃうのはいただけないわね。せっかくの紅茶が湿気てしまうわ」
「……缶などの容器に入れてないのか?」
「もちろん入れてるわよ。でも、香りを楽しむためにティーバッグの状態のまま持ち歩いて香水代わりにも使ってるの」

 サクラはそう言うと懐から小さな包みを取り出し、顔の横で楽しそうに揺らしてみせる。アオイは、見なかったこと、聞かなかったことにしたようだ。

「ほら、あと少しだぞ。5・4・3・2・1……」

 カウントが終わると同時に、遠くの方で音楽がなる。水飛沫の音と混ざり、徐々に小さくなる音。しかし時報が完全に鳴り終わる前、別の音が聞こえてきた。
 重たい鐘の音。
 耳の奥を震わせるような、ゆったりとした振動が伝わる。2人が石畳の道に降り立つのと同じくして、止まった。

「着いたわね。ここに来るのは、ずいぶん久しぶりだわ」

 煉瓦で作られた町並み。長く住んでいるため、ところどころに入っているヒビ。煙突からたちのぼる白い蒸気に目をやれば、この町で最も古い建造物である時計台が目に入る。

「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました。私が、黒崎詩織です」