複雑・ファジー小説

Re: 【3-2-2掲載】君を探し、夢に囚われる【更新不定期】 ( No.109 )
日時: 2015/12/07 00:02
名前: 黒雪 ◆SNOW.jyxyk (ID: jwhubU7D)

三章 第二幕 第二遍




 艶やかな笑顔を浮かべた美人がそこに立っていた。しかし『私が』と強調するように名乗った彼女とは、初対面ではない。でも何故か以前に会った時よりも幼い感じがする。最後に会ったのは10年前だというのにだ。

「お久しぶりでございます。以前にお会いした時と雰囲気が変わられたようですね。ますますお美しい」
「お世辞は充分です。まぁ10年も経てば変わっていないと思っていても、様々なところが変わってしまいますからね」

 そう言って、ふふふと笑っている詩織はこんなに二面性があっただろうか。幼く見えたかと思えば、妖艶な大人の顔が現れる。彼女のドレスに刺繍された蝶に笑われたような気がした。

「それで、本日はどのようなご用件でいらっしゃいましたのでしょう? わざわざ観光でここに来たわけではないでしょう」
「単刀直入に、サクッと本題に入らせてもらいますねー。詩織様——『鍵』は今どこにありますか?」

 町の音が消えた。風の音も、木々のざわめきも、鳥の羽ばたきも、すべてが呼吸をやめたかのように訪れた静寂。答えるまでの僅かな時間が、止まっていた。

「分かりきったことを聞くのですね。てっきり私は誰かが死んだのかと思いましたよ。えぇ、屋敷の中にありますわ。お見せしましょうか?」
「この目で確認して来いとスイゼンから言われてるものでね。そうさせていただきたい」
「了解いたしました。こちらへ」

 屋敷の地下は滅多に使われることがない。それ故に何か物を置いておくにはうってつけの場所になっている。
 階段を降りて1つ目の部屋は白い木。2つ目は錆びた鉄の扉。薄明かりの中を進むたびに床は軋み、オレンジのランプは点滅した。

「以前来た時と建物の雰囲気が変わりましたね。建て替えですか?」
「半年ほど前に使用人の不始末で屋敷が火事になってしまって。それで1階から上の部分を建て替えなきゃならなかったんです。幸いこの地下部分は燃えることなく残って……いえ、何があっても残るように作ったのだから当然ですわね」
「なるほど。流石の技術です」

 彼らは3つ目の曇りガラスでできた扉の前で立ち止まった。ぼんやりとしか見えないが、中央の辺りに何か黒っぽくて丸いものが浮かんでいるようだ。
 詩織が手元の端末を操作すると、部屋の中から黒いものがどんどん近づき、ガラスの扉を通り抜けてこちらへ現れた。もちろん、扉の鍵は開いていないし扉に穴が空いたわけでもない。

「鍵はこの中に」