複雑・ファジー小説
- Re: 君を探し、夢に囚われる ( No.11 )
- 日時: 2014/05/25 13:31
- 名前: 黒雪 (ID: 5T4lUgOl)
「いらっしゃいませ、こちらのご利用は初めてでしょうか? 失礼いたしました。本日は誰をご指名なさいますか? 畏まりました。まもなくアリサが参りますので、それまでこちらのテーブルでお待ちくださいませ。失礼いたします」
黒いスーツに身を包んだ男性が、笑顔で一礼してテーブルから去っていく。テーブルが見えなくなったところで彼は笑顔を消し、白い無線機を取り出した。
「アリサ、指名です。15番のテラスにお客様が待っておられます」
『了解』
短いやり取りの後、彼は再び笑顔を作ると受付へと向かっていった。
——都内でも都心に近い一等地。好星企業が所有するビルの1階と地下1階にはサロン、『Dream Prison(ドリーム プライゾン)』が存在した。
一等地でありながら広大な敷地を持ち、フロア内の移動のためにエスカレーターが存在するほどだ。サロンは1階と地下1階の二階層に分かれており、常連客や特別な客などは地下のフロアに案内され、それ以外の客は1階のフロアへ案内される。
接客する従業員も1階の方が新人の割合が多く、地下にはベテランの方が多い。とはいえ、人気商売でもあるので人気のある従業員が1階にいることは大して珍しくない。
そのため、今受付で来店した客の応対をしているのはスイゼンだ。彼はこのサロンの中でも特に人気のある4人、『四天王』の1人。
静かで落ち着いた性格と崩れることの無いポーカーフェイスから、女性客を中心に『氷鏡の静謐』と呼ばれている。また、サロンの従業員は様々な知識に長けているのだが、彼はその中でも特に花に長けている。花の香り、花言葉、さらにはフラワーアレジメントなど花に関する知識で彼を上回るものは無い。
チリン、と受付の脇においてあった鈴が鳴る。鈴には無線が付いていて、客が彼のことを呼んだときになる仕組みになっており、その鈴はトップ4たる『四天王』の証の1つでもあった。
「御呼びでしょうか? って、サクラ。こんなことに呼び鈴を使わないでください。本当に私のことをお客様が呼んでいらしたらどうするのです。待たせてしまいますよ」
「良いじゃない。私1人じゃ、このテーブルを片付けられそうに無かったのよ。ね? ちょっと手伝って」
「はいはい。畏まりました」
彼のことを呼び出したのはサクラ。彼女もまた、『四天王』の1人だ。春のような暖かい微笑みを湛え、一瞬で心を奪われる男性客も少なくない。彼女はハーブに関する知識に長け、常にベルガモットの香りの香水をつけている事から『ベルガモットの妖精』と客からは呼ばれている。
「それにしても、最近はサロンの人気が凄いわね。それだけ癒しを求めている人が多いのかしら」
「さぁ? 『Traum Morgen』の効果も大きいと思いますが」
そう言うとスイゼンは意味ありげに、無表情だった顔の上に笑みを浮かべた。
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「Prison」は本来、「プリズン」のような発音ですが、ここではわざと「プライゾン」と読んでいます。